初恋のアルバム
あなたは両親の青春時代に興味はありますか?
あなたの青春時代はいつですか?
中学生の頃?
高校生の頃?
大学生の頃?
楽しかったですか?
寂しかったですか?
辛かったですか?
何か目標に向かって走ってました?
スキな子に夢中でしたか?
楽しくも苦々しい青春時代は皆あったと思います
それはあなたのお父さん、お母さん、兄弟、姉妹、身近な人それぞれにありました
あなたのお母さん、お父さんの青春時代ってどんな風だったのでしょう?
何に夢中になっていて、何に悩んで過ごしていたか、知りたくないですか?
いつも尊敬できる人
見事に私達を育ててくれた人
悪戦苦闘し、喧嘩し、泣きながら、笑いながら、僕たちを守ってくれて、何不自由なく、すくすく育ててくれたお母さん、お父さん
中には厳しい、弱い、頼りない、お母さん、お父さんもいらっしゃるでしょう
もしかしたら、お父さん、お母さんが大嫌いな人もいるでしょう
そんな彼らのもとに生まれてきたことがイヤに思った人、大勢いらっしゃると思います
他の子の親と比べてみて、頼りない、恥ずかしい、行儀が悪い、貧しい、いつも家にいない、うちは暗いとか
もう、こんな家出ていきたい!
他所の家に生まれたかった!
こんな家に生まれたから、今の自分に自信が持てない
そう思っている人はたくさんいらっしゃると思います
この作品はそんな方々のための映画です
あなたのお母さん、お父さんにも、あなたが知らない子供時代、青春時代がありました
あなたと同じくらいのパワーで子供時代、青春時代を駆け抜けて、大人になっています
そんなお母さん、お父さんの過去を覗くことができ、見終わった後にはすぐに電話をかけたくなるような作品です
登場人物は一人娘のナヨン、その母親のヨンスン、父親ジングク、恋人のドヒョン、ヨンスンの弟で叔父のヨンホです
大嫌いな両親
映画の冒頭、お父さんは被保証人に逃げられ、被保証人の葬式で悪態をつく、お母さんのシーンから始まります
お父さんは優しい人で、他人の保証人になってしまって、逃げられてしまい、家には多額の借金が出来てしまいます
そのため、ナヨンは行きたかった大学に行けなくなりました
ヨンスン:
「私も調べてみたよ」
「大学は後で金を貯めてからでも入れるって」
「学校には後で」
「後からでも行ける」
ナヨン:
「学校には後で...」
「後からでも行ける」
「学校には後で...」
「後からでも行ける」
実はお母さんは孤児で、貧乏だったので、学校には行けませんでした
このことはナヨンは知らないんですが、
だから、娘にしかたなく後から行けるからとヨンスンはナヨンに言い聞かせます
子供にとったら、今行きたいんですよね
それに、本当に後から行けるかわかりません
ナヨンの落ち込む気持ちわかります
ヨンスンが娘に大学に行かせたい気持ちも分かります
時が過ぎ、ナヨンは郵便局で働くことになりました
研修で行くことになっているニュージーランドの風景写真を見ながら、とても楽しみにしています
海辺を指でなぞり、その海辺が済州島の海に変わりオープニングが始まります
光り輝く綺麗な海中で海女たちがたくさん泳いでいます
次のシーンで銭湯の湯の中から浮かび上がってきた中年の女性、ナヨンの母、ヨンスンです
ヨンスンは痰を吐くのが癖になっています
海女の時の癖が治らないでいます
ヨンスンは銭湯で垢すり屋の仕事をしています
大好きな赤の服を着ています
銭湯では"be the reds"
サッカー韓国代表サポーターのTシャツです
ヨンスンはとても口がとても悪く、行儀も悪く、お金に執着しすぎる人です
ナヨンにはドヒョンという恋人がいます
ドヒョンはナヨンのお母さんの昔のアルバムを見ています
ドヒョン:
「お母さん?」
「綺麗だったんだな」
「海女だったの?」
ナヨン:「そうみたい」
ドヒョン:
「かっこいいな」
「何で言わなかったの?」
ナヨン:「そんなことまで、あなたに?」
ドヒョン:
「当然だよ」
「お母さんにそっくりだな」
ナヨン:「どこがよ」
ドヒョン:
「自分では気づかないものさ」
「似てると言うより全く同じだ」
「年を取ったらお母さんと同じに」
ナヨン:「似てないわよ、全然」
ナヨンはムキになってアルバムをしまいます
お母さんのこと嫌いなんですね
お母さんはどこからかタンスを拾ってきて、無理やり娘の部屋に入れようとしますが、ナヨンに拒否されます
そういう強引なところがあり、世話好きなんですね
その横でお父さんは無言でタバコを吸っています
ヨンスン:
「吸うんじゃないよ」
「栄養剤のつもりかい」
「娘にすまないと思わないの?」
「こづかいまで人に借りてるのに私だったら申し訳なくて吸えないよ」
ナヨンの部屋には古いタンスがあります
それが今の生活の象徴のようになっています
このタンスがナヨンに取っては目障りなんですね
古くて無骨で重々しくて暗いんです
そして何も関心を示さずに、テレビを見る父にもナヨンは嫌気がしています
それでも性格がとても優しいお父さん
娘の誕生日にわかめスープをつくってあげようとして手をやけどします
ナヨンは情けない父を見るのがイヤなんですね
気分晴らしの外食でお父さんは突然泣き出します
ジングク:「わしはもう休みたい」
ヨンスン:
「何てこと言うんだい」
「仕事するのがイヤだなんて」
「郵便局の手紙の仕分けすら疲れるってグズグズ言うのかい」
父の失踪
そして、お父さんは突然会社を辞めてしまいます
ナヨンの同僚はお父さんにお金を借りていました
誰にでも優しいお父さんなんですね
ナヨンはお父さんの机の中に病院からの封筒を見つけます
ナヨンは落ち込み、お父さんを病院で見てもらおうとします
ナヨン:「父さん病気なんだって」
ヨンスン:
「そうなの?」
「医者は皆ウソつきだ」
「あいつらは商売で病人を診てるんだ」
ナヨン:「本当よ、だいぶ前からだって」
ヨンスン:
「人は死ぬ時には死ぬんだ」
「あの生き方を見てきただろ?」
「父さんのやることを」
「”もう休みたい”だって?」
「何もしてないくせにまともに給料を持ってきたことは一度もない」
「必死で貯めた金を保証人で取られ、その上給料で穴埋めまで」
「本当にバカだよ」
「のたれ死にしなきゃこっそり帰ってくるさ」
ナヨン:「探さないよね」
ヨンスン:「なぜ探す?」
ナヨン:「私も探さないよ」
ヨンスン:
「そうさ、それが言いたかった」
「誰もお前に頼んでない」
「探すんじゃないよ」
「ニュージーランドとやらに行って鹿の角でも買ってきな」
「全くなんてバカなんだい」
冷酷なヨンスンにナヨンは涙を流します
ドヒョンの元に行きます
ナヨンはドヒョンのバイクの後ろで号泣します
ドヒョン:「ナヨン、ナヨン」
ナヨン:「もう行って」
ドヒョン:「一緒に行ってやるから」
ナヨン:
「どこへ?」
「探さないんだってば。もう行って」
ドヒョン:「意地を張るな、つらいだろ」
ナヨン:
「私は平気よ」
「もう、何とも無い」
「それで、明日、予定通りニュージーランドに行くわ」
ドヒョン:
「いいから行こう」
「お前の父は俺の父だ」
ナヨン:
「何?何ですって?」
「笑わせないで」
「あの人達は、親になる資格のない人たちよ」
「あなたは孤児の自分が一番不幸だと思ってる」
「私にはうらやましい」
「いっそ、私も孤児だったらと思うわ」
「いくら探してもひとつもない」
「ひとつもよ!」
「いい思い出がないの」
「私には現実しか無い」
「チョ・ヨンスクとキム・ジングク」
「私はあの二人の娘、それが現実なの」
「私はあなたとの関係にも自信がない」
「結婚?」
「うちの親みたいになるわ」
「イヤよ、あんな生活」
「独りで生きる」
「家族なんかなしで気ままに生きるわ」
「わかった?もう行って」
ドヒョン:
「俺のことが嫌なら行くよ」
「でも、今の言葉は信じない」
お父さんの失踪後、お母さんは無言で働いています
今までずっと働くことで一人のつらさを我慢してきたのですね
ナヨンは叔父のヨンホに父の居所の心当たりを聞きに行きます
この叔父さんはナヨンが深刻な顔をしているのに、パットゴルフしたり、投資を持ちかけてきたりして、呑気なんです
このあたりがこの作品の面白い所で、切羽詰まった空気を一掃してくれます
父を探しに済州島へ、そしてタイムスリップ
ナヨンは迷った末に、楽しみにしていたニュージーランド行きを諦め、父を探しに済州島行きの飛行機に乗りました
またもや、両親のせいで、自分のやりたいことができないとナヨンの心は暗くなります
その飛行機のシートにも赤色が使われていますね
ナヨン:
「旅行には後で...」
「後からでも行ける」
フェリーに乗り継ぎ、母の生まれ故郷に着きます
島に着いたと同時に、このドンヨリした空気が一変します
上陸して、バイクの郵便配達夫とすれ違うナヨン
その瞬間、バイクが真っ赤な自転車に変わり、清々しくて優しそうな青年に変わりました
ナヨン:
「すみません」
「ハリってどこですが?」
郵便配達夫:
「ハリですか?」
「その道の先に橋があります」
「渡った先がハリです」
若いお父さんとの出会いです
辺りは真っ青な空と海、緑の植物、色とりどりの花でいっぱいです
故郷の家を探し当てたナヨン
ナヨン:
「ごめんください」
「父さん!、父さん!」
若いヨンスン:「どなた?」
二人は顔を見合わせます
しかしなんとその人は自分と瓜二つの顔をした若い母ヨンスンでした
ナヨン:「母さん?」
ナヨンは次の朝、寝床で目覚めます
壁にはアルバムに入っていたヨンスンの写真、部屋にはあの古めかしいタンスが居座っています
ヨンスンは満面の笑顔でてんこ盛りの食事を運んできて、
ヨンスン:
「よく眠れました?」
「疲れていたようですね」
「お腹すいてますよね」
「食べて」
「そう、ケジャンをどうぞ」
「塩が効いて美味しいですよ」
その勧め方が外食で焼肉を食べてる時の卵を無理やり食べさせる感じとそっくりなんですね
ぜんぜん嫌気がありません
寂しがり屋だったのでしょうね
すごく丁寧にお客さんをもてなします
娘が知らない母の姿
いつも笑顔で、畑をしたり、海産物を干したり、家の用事をしたり、働き者のヨンスン
ヨンスンは海女で素潜りを生業として生活しています
そこにあの若い青年の郵便屋さんが配達に来ました
ヨンスンは慌てて、外に飛び出します
ヨンスンはこの郵便配達夫のジングクに恋しているんですね
すごく可愛らしい姿を見せます
受け取りのサインを書かないといけないのですが、ヨンスンは字が書けないんです
それを知られないように手を水で濡らして、今は書けないと言って、ジングクに書いてもらいます
ヨンスンと会話するジングクも好意を持っていて笑顔で楽しそうです
ヨンスン:
「食べ終わりました?」
「読んでもらえません?」
「字が読めなくて、後で習うつもりです」
この”後で習う”っていうのが心打たれるんですね
母も貧しくて、学校に行けなかったんです
母も我慢して生きてきたのだとナヨンは知ります
ヨンスン:
「私は出かけます」
「食器は台所へ」
「暑ければ、私の服をどうぞ」
「赤以外なら何でも」
海の沖でラッコの群れのように海女たちが浮き輪に浮かびながらこちらに手を振っています
笑顔が素敵なヨンスン
毎日、ヨンスンは弟のヨンホに手紙を送らせ、ジングクから受け取ります
ジングク:「チョ・ヨンスンさんですね」
ヨンスン:「はい」
ジングク:
「蓮華の蓮に従順の順でヨンスン」
「合ってます?」
ヨンスン:「ただのヨンスンです」
ジングク:
「ああ、そうですか」
「さようなら」
この時、ジングクはヨンスンが字の読み書きができないことをそれとなく知ります
ジングクの足跡を歩き、足が長いなとニヤけています
そんなやりとりをじっと見ているナヨン
その間にもナヨンは色々仕事をして働いています
そこに陽気に弟のヨンホが帰ってきます
ヨンホ:
「♪ 帰ってきました、キム兵士」
「♪ 姉のヨンスン大喜び」
「メシくれ!ヨンスン」
「♪ 帰ってきました、キム兵士」
「♪ 好きになってしまいました」
「♪ ベトナム帰りの日焼けしたキム兵士」
「♪ 笑顔でお帰りです」
ヨンスンの家の中がとてもカラフルで陽気なんですね
ドライフラワーやほおづき、ピンクのカーテン、藁の飾りもの、流木のアンティーク
いかにも南国って感じです
ヨンホは続けて陽気に歌います。
ヨンホ:
「♪ 黒い瞳のお嬢さん」
「♪ 見た目は生意気そうだけど」
「♪ 心は絹のようにきれいだから」
「♪ 僕は本当にほれちゃった」
「♪ 心が美しければ、それが女さ」
「♪ 顔がかわいけりゃ、女なのか」
「♪ 一度、心を許せば変わらない」
「♪ そういう女が本当の女なのさ」
「♪ 心が美しければ、それが女さ」
「♪ 顔がかわいけりゃ、女なのか」
「♪ 一度、心を許せば変わらない」
「♪ そういう女が本当の女なのさ」
ヨンホは姉さんが恋をしているのをからかって、恋の歌を歌っているのでしょうか?
島に新しいバスが来て、村民皆で写真撮影をします
そこにジングクが通る自転車のベルが鳴り、ヨンスンはジングクが気になり、よそ見しちゃいます
家中を煙まみれにしていた、ヨンホ
ナヨンにチヂミを焼いてあげていました
ヨンホ:
「♪ 金がなければ、家へ帰れ」
「♪ チヂミでも焼いて食べな」
ヨンスンはチヂミをたくさん焼いて近所に配ります
ヨンスンは赤色のズボンを履いて、楽しそうにチヂミを配ります
お皿をジングクに渡して返してもらうようにという作戦でした
ヨンスンが赤色が好きな理由がやっと分かるんですね
それは、郵便屋さんの自転車の赤色でした
大人になってもその色を大切にして来たんですね
みんな自分でかごを返してきて、ジングクは来ませんでした
残念がって眠れないヨンスン
そんな、恋煩いを見ているナヨン
あの母親がまさかって感じでしょうね
ナヨンは恋の手伝いを買って出ます
ナヨンはヨンスンに近所の人の危篤の電報を郵便局まで届ける役割をお願いします
ヨンスンは一生懸命、電報の内容を暗記します
バスに乗ってやがて、郵便局に着きますが、字が書けないので電報を記入できません
途方にくれ、外でうずくまっているとジングクがやって来ました
ジングクが電報を打ってくれました
ジングクはその時、ヨンスンが字が読み書きできないことを恥じているのを知ります
そして、優しいジングクは字の先生になってあげます
ヨンスンが、ジングクの優しさの有り難さを誰よりも受け取っているんですね
大人になっても、決して忘れるはずはありません
ジングク:
「ヨンスンさん」
「小包ですよ」
ヨンスン:「どこから来ました?」
ジングク:「わかりません」
中身は国語の教科書とノートと筆記用具が入っていました
ジングク:
「僕が教えます」
「名前が書けるまで一緒に勉強しましょう」
ヨンスンは泣きながら何度も頷きました
ジングクはヨンスンを元気づけるために自転車に乗せてあげます
ジングク:
「ヨンスンさん、乗ってみます?さあ」
「”オーライ”って言ってください」
ヨンスン:「オーライ(か細い声で)」
ジングク:「オーライってもっと元気よく!」
ヨンスン:「オーライ(か細い声で)」
ジングク:「だめだめ」
ヨンスン:「オーライ(大きな声で)」
ジングク:「さあ、行きますよ!」
父と母、先生と生徒
ジングクとヨンスンだけの字の学校が始まりました
ジングク先生とのテストのために、ナヨンもヨンスンを手伝ってあげます
お気に入りの赤い服にさらに口紅を塗って、ヨンスンは授業を受けます
最初は20点でしたが、ジングクはヨンスンを励まします
ヨンスンは毎夜、一生懸命に勉強して80点を取ります
ヨンスンはナヨンに楽しそうに話します
ヨンスン:
「お姉さんなら見せてもいいか」
「お姉さんだから、見せちゃおう」
”80点よくできました”と答案に書かれていました
ヨンスン:
「知ってるでしょ、テストは難しいわ」
「”大変よくできました”は初めて」
ナヨン:
「喜んだでしょ」
「キム・ジングクさん」
ヨンスン:
「いいえ、彼はただの先生よ」
「私がかわいそうで、字も教えてくれて、これも買ってくれて」
「いろんなこと知ってるの」
「字もきれいだし、私は足元にも及ばない」
ナヨン:「いい人でしょ?」
ヨンスン:
「もちろん、いい人です」
「すごく、いい人よ」
ナヨン:「優しいよね、だから余計につらい」
ヨンスン:「えっ?」
ナヨン:「いいえ、ただ...」
ヨンスン:「なぜ、いつも途中で黙るの?」
ナヨン:「優しいばかりに周りをつらくさせることもあるかなって」
ヨンスン:
「お姉さん、妙なこと言うね」
「優しくて何が悪いの?」
ナヨン:
「あの人のことじゃないの」
「私の知ってる違う人のことなの」
「違う人なの」
ヨンスン:
「もういいです」
「お姉さん、間違ってますよ」
「誰の話かわからないけど、人はまず、優しくなきゃ」
お母さんから、間違っているの否定されるところがいいですね
お母さんは優しいところが欠点だなんて思っていないんですね。
大人のヨンスンもジングクに悪態はつくけど、つらいなんて事は一度も言ったことないんですね
娘はお母さんの心の中をこの時に知るんですね
そして生徒と先生の楽しい時間を二人は過ごします
ヨンスンの天真爛漫な明るさにジングクもだんだん引かれていきます
字がだんだん上達していくヨンスン
別れは突然に
いつもより、元気がないジングク
ある日、ジングクは自分が転勤になったとヨンスンに告げます
ジングクは音読しながら、
ヨンスン:
「6番、ヨンスンはいい子でかわいいです」
「恋しくなるでしょう」
「あの...転勤するんです、本土に」
「一人で勉強がんばれますね?」
(人魚姫という本とこれからの勉強道具を持ってきて)
「これを読むのを聞きたかったのに...」
「必ず勉強を終えて、読むんですよ」
ヨンスン:
「いつですか?」
「すぐですか?」
ジングク:「ええ」
ヨンスン:「わかりました」
ヨンスンは自宅の寝床でうずくまってすすり泣きます
どうしようもできず、うつむき、ため息をつくナヨン
ヨンスンは村でジングクを見かけても涙が止まりません
それから二人は疎遠になります
ジングクとの別れが耐えられないヨンスン
ヨンスンは悲しみを忘れようと一心不乱に働いて、素潜りします
息継ぎを忘れてしまい、ヨンスンは海中から浮かんで来ません
ヨンスンは海で溺れてしまいます
ナヨンは”お母さん!お母さん!”と悲痛に叫びます
必死に看病するジングク
奇跡の水と村に伝わる水を海からせっせとヨンスンのために運びます
そんなジングクをナヨンは見つめます
前にお父さんの優しさがつらいと言ったナヨンでしたが、ジングクの必死の看病にナヨンも心打たれたます
お父さんがはこんなにお母さんのことが好きだったんだと思ったはずです
ナヨンもまたヨンスンの手を握り、髪を撫で、必死に看病します
意識を取り戻したヨンスン
母の真実な心の中を知る
ヨンスン:「こんなことで寝込んでちゃだめね」
ナヨン:「眠ってください」
ヨンスン:「ありがとうお姉さん」
ナヨン:
「ナヨンと読んでください」
「その方が気楽です」
ヨンスン:
「夢で母親に会ったわ」
「私、拾われてきたの」
「初めは知らなくて、おばさんたちの話でわかったの」
「最初は驚いたわ」
「たまに、空しくてやるせなくなって、すごく寂しくなるのは、そのせいだって思った」
「捨て子だったからなんだと思った」
「そう思ってたけど、そうじゃなかった」
「会いたかったからなの、母さんが恋しくて」
「私ね、今度生まれ変わるときはね」
「お母さんと別れたくない」
「海にも潜りたくないし、他の子たちみたいに、学校にも通って」
「ありがとう、お姉さん」
「本当にありがとう」
そう言って、ヨンスンはナヨンの膝に泣きつきました
ナヨンはこんなに弱いお母さんを見たのは初めてだったのではないでしょうか?
”今度生まれ変わったら”なんて、とても悲しいことを口にしました
ナヨン:
「私の母さんは垢すり屋さん」
「毎日、人の垢をすってお金をもらうの」
「1人1万ウォン、10人だと10万ウォン」
「母さんにはお金が一番大事なの」
「口も悪いわ」
「恥知らずだし」
「父さんにもつらく当たる」
「それが私の母親」
「私、母親が嫌いなの」
「母さんみたいな生き方は絶対しない」
「何度も、何度もそう誓ったわ」
「なのに、どうしてかな」
「母さんが哀れで、母さんが可愛そうで、何度も母さんを思い出す」
「こうして見てるのに、何度も母さんを思い出す」
「子供は、親の弱さを知った時、必ず成長するものですね」
ナヨンは、この時、母親の本当の寂しさを知りました。
生まれ変わったら、母のそばを離れたくないと言うヨンスンの思いを叶えてあげたいと思ったのではないでしょうか
自分が母親のそばにずっといることで
年を取った親は我が子のようにあつかえと言いますが、ナヨンは成長したのだと思います
ジングクへの手紙
ナヨンは机の上のヨンスンの手紙を見つけます
ジングクは島を去ってしまいましたが、ヨンスンは覚えたての字で必死にジングクへ手紙を書きました
ヨンスンは勇気がなくて、手紙を出せないのかもしれません
ヨンスン:
「私は元気です」
「ご飯もよく食べて、今日は海にも潜りました」
「字を教えてくれてありがとう」
「帳面と鉛筆と消しゴムを買ってくれたこと、感謝しています」
「あの時、言えなかったことがあります」
「とても会いたいです」
涙して読んだナヨンは黙ってポストに投函します
郵便局の前で、ナヨンは悩みが晴れたかのように、笑顔を浮かべました
ナヨン、戻る。父との再会
すると、中年の男の声がどこからか聞こえて来ます
中年の男:「♪ 恋人(ニム)という字に点を打ちゃ、他人(ナム)という字になっちまう」
「♪ おかしな人生さ...」
釣り道具を持った、現代のヨンホでした
どうやら、父親もこの済州島に来ていて、ナヨンがタイムスリップしている間、何日か経っていたみたいです
ナヨン:「お父さんはどこ?」
叔父:「あの丘だよ」
それはジングクがいつも素潜りしているヨンスクを見つめていた丘でした
丘を見ると若いジングクが海を見つめていて、ナヨンを見た瞬間に、現代のお父さんに変わりました
ナヨン:「やっときた場所がここ?」
父親:
「そうだな」
「なぜ、行かなかった?いい機会だったのに」
ナヨン:「そうよね」
ナヨンは、父のところに来るように母に連絡します
一度は断られますが、ドヒョンに連れてきてもらいます
真っ赤なコートを着て、フェリーの中で海を見つめながら物思いにふけるお母さん
島に着き、お母さんはドヒョンに話しかけます
母親:「バイク便屋だって?」
ドヒョン:「はい」
母親:「ご両親は何を?」
ドヒョン:「いません」
母親:「いつ?」
ドヒョン:「あの、幼い頃です」
それを聞いた途端、ヨンスンはドヒョンの顔を優しく見つめます
母親:「2人とも?」
ドヒョン:「はい」
母親:
「結婚するのは大変だね」
「ナヨンが好きなら、たくさん稼ぎな」
ドヒョン:「はい」
母親:「お前たちに何が分かる」
いやいやながらも、お母さんはお父さんに会いにいきます
父が寝ている布団が、郵便屋の赤と緑の柄なんですね
ナヨンはそっと二人だけにして、部屋を出てあげます
父親:「すまないな、わしのせいで」
母親:
「”すまない、すまない”ばかりもう言わないで」
「”すまない”?」
「あんなことしておいて、何だいその有様は」
「人並みの贅沢もしてないし、人様みたいな息子もいないんだ」
「ねばりにねばって、人より長生きしなきゃ」
「それなのに、何も手に入れないで死ぬの?」
「そんな姿見たくないんだよ」
「私の小言をがまんし続けたのに」
二人の会話を聞いて、ナヨンは涙を流します
済州島の故郷には雪が散っていました
そして、少し経ってお父さんは亡くなりました
父との思い出
ナヨンは子供ができ、おじいちゃん、おばあちゃんのアルバムを見せます
村に新しいバスが来た時の記念写真です
バスの片隅に写るジングク
ナヨンは笑っているかが気になり、お母さんに電話します
母親:「もしもし、何だい?」
ナヨン:
「母さんの昔の写真で、村の人とバスで撮ったのあるでしょ?」
「覚えてる?」
母親:「それで?」
ナヨン:「お父さんは写ってるでしょうか?」
母親:
「バカな子だね、それで電話したのかい」
「忙しいんだよ」
「写ってるとも」
「ちゃんと写ればいいのに、隅の方に泥棒ネコみたいに」
ナヨン:「知ってたんだ」
母親:「くだらないね、切るよ」
ナヨン:
「母さん、ちょっと待って」
「父さん、笑ってる?」
母親:
「バカな子だ、忙しいんだよ」
「え?笑ってるさ」
「好きで写ったんだ、泣くもんか」
「忙しいんだ、切るよ」
ナヨン:「母さん、待ってよ」
母親:「何なの、また」
ナヨン:「怒鳴らないでよ」
母親:「まったく、お前のせいだよ」
ナヨン:
「今日は早く帰って来て」
「父さんの命日よ、ね?」
母親:「なんてバカな子」
ナヨンは母親に負けないくらいしつこく食い下がってます
お母さんに甘えるように
お父さんは優しすぎて、お母さんに言い返せず、言われっぱなしですが、ナヨンは母親に似たのか、決して負けません
ギスギス聞こえるのは、表面だけですね
たぶん、お父さんは聞き流していたんだと思います
こういう形もありだと思います
でなけりゃ、長年連れ添わないと思います
そして、お母さんは明るく、お金を求めて、垢すり屋さんしています
ラストのシーンでもう一度、あのバスの記念撮影が映し出されます
ジングクはバスの後ろから自転車を降り、ヨンスンを見つけると、ほくそ笑んで、写真撮影に加わります
チーズの時でもじっとしていられないヨンスンは、ジングクを必死に探します
写真を撮った後、お互い見つけ、笑顔で見つめ合いました
ジングクが去る自転車の後ろを、ヨンスンは優しく見送ります
垢すりを終えて、銭湯の中でゆったりするお母さん
昔のバス撮影を思い出しながら笑顔で独り言をつぶやきます
母親:
「バカな娘だよ」
「泣くわけないだろう」
そう言って、笑顔でもぐり始めます
娘からお母さんへ昔の思い出をプレゼントしたんですね
おわりに
この作品は映画的に視覚に訴える所がたくさんあるのが特徴です
特に赤
郵便屋さんの自転車の色
布団の柄
素潜り漁の浮き輪の色
字をジングクに教わる時はいつもお気に入りの赤い服を着ていました
年を取って垢すり屋で働く時にも、サッカー代表の応援Tシャツbe the Redsを着ています
済州島に向かう飛行機の座席も赤色でした
ヨンスンが済州島へジングクに会いに行く時は赤のコート
ヨンスンの恋心を表しているのと、現代の暮らしとの対比に使われています
現代のグレーや青と対比した故郷の赤
現代の都会の貧しい暮らしと若い時代の済州島の鮮やかな海と植物の対比
弟ヨンホの明るくテンポのいい感じ
いい意味で悪ガキで、故郷のいい時代感を作ってくれています
大事な字の練習帳をちぎって、メンコをつくったり、チヂミを急いで食べて、口の周りが小麦粉だらけだったり
そして、よく食事のシーンが出てきますが、それが、生活感が出ていいんですね
登場人物の素の表情や本心がくっきり現れますね
ヨンスンは麺を口いっぱい入れて食べたり、ケジャンという蟹キムチが足りないと言って怒ったりしています
若いジングクはヨンスンに麺を分けて、その食べっぷりを見て、笑います
ヨンスンがまだ素潜りしたくて、銭湯の垢すり屋をしているところなんか、可愛くていいですね
昔みたいに素潜りが出来る職業をちゃんと選んでいます
ユーモアですね
若い時のタンスをナヨンにあげてるのがあとになってわかりますが、そういう演出もいいですね
最終でナヨンがヨンスンに電話をかけるのですが、それがまた、とてもヨンスンに甘える感じで、何度も何度も質問します
若いヨンスンに出会う前のシーンとは逆でヨンスンの電話責めをとても嫌がっていました
この逆転劇もなかなかいいですね
ナヨンはお母さん、お父さんを理解できていませんでした
生い立ち、馴れ初め、環境を知ります
子供は親の影響をたくさん受けて育ちます
しだいに周りの親と見比べて、自分の親がどういうふうなのか客観的にわかってしまいます
でも、親のすべてを見たわけではありません
心の中は覗けません
過ごしてきた若い時はわかりません
知らないことだらけです
今の親を見て、幻滅しないことです
親にも親がいて、兄弟がいて、友人がいます
歴史があります
いいものも悪いものも
そういうことが積み重なって人格が形成されています
親は完璧ではありませんし、理想的ではありません
寂しさに堪えながら、誰かに依存しながら、誰かと競争しながら、喧嘩しながら、時には自分を犠牲にしながら生きてきました
なので、子供や配偶者や周りに愛情が足りなかったりするかもしれません
親も子供みたいなものでしょう
誰かに頼りたいし、甘えたいのです
大人になると甘えにくいし、甘えさせてくれにくいのです
だから、その手段がいびつに変化して、攻撃的になったり、無気力状態になったりします
でもそんな両親をリスペクトしましょう、許しましょう、認めましょう、あなたの身近な人の歩いてきた道を
ささやかでもいっしょに食事をして、できるだけじっくり話を聞いてあげましょう
それでは、次の作品まで
さよなら