- 01.はじめに
- 02.ジェルソミーナという女
- 03.ザンパノという男
- 04.二人の共演
- 05.豪華な夕食
- 06.置いてけぼり
- 07.孤独
- 08.放浪
- 09.綱渡り
- 10.ザンパノとイルマット
- 11.役立たず
- 12.ジェルソミーナの決意
- 13.お似合いの二人
- 14.修道院
- 15.窃盗の罪
- 16.殺人の罪
- 17.心の崩壊
- 18.遺棄の罪
- 19.精霊の声
- 20.ザンパノの贖罪
- 21.男女関係とは
- 22.罪と贖罪
- 23.人の存在意義
- 24.さいごに
- 25.関連作品
01.はじめに
映画を観る時どうするかというと、「映画は監督で観る」という教えが淀川さんにはありました。
そして、映画は他の種類の芸術と比べると、音楽にとても近いと思われます。
特別な空間の中に「時の流れ」と観た「当時の思い出」が記憶に残ったりするからだと思います。
音楽も映画も「流れ」の中に生きています。
喜怒哀楽のテンポやカット割りをもっています。
名監督の隣にはいつも名作曲家がいます。
☆「鳥」「サイコ」「ダイヤルMを廻せ」の
ヒッチコック&バーナード・ハーマン☆
☆「E.T」「ジョーズ」「ジュラシック・パーク」の
スピルバーグ&ジョン・ウィリアムス☆
☆「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「フォレスト・ガンプ」「キャスト・アウェイ」の
ロバート・ゼメキス&アラン・シルベストリ☆
☆「ラスト・エンペラー」「シェルタリング・スカイ」の
ベルトルッチ&坂本龍一☆
イタリア最大の巨匠、フェリーニとその片腕ニーノ・ロータも素晴らしい名コンビです。
この作品を観終わったあなたは、ニーノ・ロータの曲が頭からしばらくは離れないだろうと思います。
『道』(ラ・ストラーダ)
パナソニックのカーナビでお馴染みのイタリア語のストラーダですね。
お持ちの方は、カーナビに触れる度にこの『道』を思い出してもらえるでしょう。
本作品のテーマは「人と人が寄り添う理由」なのだと思います。
イタリア映画らしく人間くささに満ちていて、背後には神の存在がはっきりと感じられる作品です。
誤解を恐れずに申しますと、
主人公のジェルソミーナは女の原型、ザンパノは男の原型。
ジェルソミーナは神が使わした天使、ザンパノは人間の業そのもの。
「こういう人は近くにはいないな」と思うのではなく、人間の共通した特徴をもった登場人物に仕上げています。
フェリーニ監督の著書の中にこの作品に関しての言葉があります。
~《主な登場人物》~
~《誰かに伝えたい名セリフ》~
~《あなたに観せたい美しいキャメラシーン》~
02.ジェルソミーナという女
冒頭シーンで子供たちが叫びます。
広大な海を背景に、浜辺を木の枝の束を背負った1人の娘が、まるでかかしやマッチ棒のように頼り無げにヒョコヒョコと歩いています。
ジェルソミーナの方に向かって子供が4人、浜辺に駆け寄ってきます。
何度も何度も寄せては返す無常感の白波と、寒々とした波の音が繰り返されています。
このシーンを見ただけでこの映画が素晴らしいというのが分かるほどです。
本作品の主人公の娘、ジェルソミーナ。
「ジャスミン」の花の意味で、「純粋さ」の象徴として彼女を描いています。
彼女はとても子供心に溢れていて、子供たちにとっては宝物のような人なんです。
これから旅するどの町でもいつも子供が集まってくるような娘です。
ジェルソミーナは急いで家に帰ります。
困ったような顔で話を聞くジェルソミーナ。
壁にもたれかかり、無表情にタバコを吸うザンパノ。
母親はハンカチで目を押さえて、一人大げさにしゃべります。
自分は売られてしまうのだと分かったジェルソミーナは、涙を浮かべてうつむきます。
母親はもうすでにお金をもらっているんですね。
話がついてしまっているんですね。
舞台は第二次世界大戦後に敗戦して荒れ果てたイタリア。
彼女の家は貧しく、姉のローザは以前にザンパノに売られてしまったじたのですね。
ローザが死んで、新たに旅芸人の助手としてザンパノが今度は妹を連れに来ました。
母親は口減らしのためにジェルソミーナを売ります。
こんな風に懇願されてはジェルソミーナは断ることができません。
これは極端にひどい話ですが、あなたは親や兄弟、親戚、友人に近いことを言われたことはないでしょうか?
「家族なら当然してくれるよね?」
「お願い、友達でしょ?」
これこそ、"羊の皮をかぶった狼" です。
タオルを巻いた凶器ですね。
倫理観、家族愛、友情をかぶせたナイフを突きつけられたことはないでしょうか?
ジェルソミーナにとっては辛いですね。
泣きつかれながら、すがりつかれながら、ザンパノと行くように訴えられます。
「自己犠牲」を他人の意志で強いられます。
自分には価値がない人間だと強く心を傷つけてしまいます。
ザンパノの言葉に、これからジェルソミーナがこき使われる運命が見えてしまいます。
ジェルソミーナは悲しさのあまり、うつむいて海の方に歩いて行きました。
ジェルソミーナはこみ上げる涙を止めて、笑顔を無理やり作り出して、自分を勇気づけます。
ジェルソミーナの母親は帰ってくるなと言わんばかりに首を振ります。
ジェルソミーナの母親:「行かないで、行かないで、娘や、行かないで」
ジェルソミーナは笑顔を無理やりに作り出し、家族を抱きしめて別れを済ませます。
ジェルソミーナは汚れたオート三輪車の荷台に乗り込み、追いかけて走ってくる兄弟たちに手を振ります。
03.ザンパノという男
ザンパノは大道芸を村で行いました。
ザンパノは両腕を上げて、深く息を吸い込みました。
ジェルソミーナは荷台の中から緊張の面持ちでザンパノを見つめます。
見事、鎖はちぎれて大成功です。
観客から拍手が沸き起こります。
ジェルソミーナも優しく両手で拍手しました。
ある日の食事風景です。
二人は貧しい簡単なマカロニを鉄のお椀で食べています。
ジェルソミーナは食べるふりをしてポイッと捨てます。
自分で作った料理がまずいんですね。
ザンパノは荷台から衣装をまさぐります。
そういってザンパノはジェルソミーナに帽子を被せます。
まんざらでもない様子のジェルソミーナ。
ジェルソミーナは小声で嫌々ながら言います。
ザンパノは見本を見せます。
帽子を被せてもらったジェルソミーナはザンパノの目を盗んで、陽気に踊ります。
ザンパノは芸の登場曲を勢いよく吹きました。
ジェルソミーナもトランペットを勝手に吹きます。
今度は小太鼓をジェルソミーナの肩にかけます。
ザンパノはバチの持ち方を見せて叩き方を教えました。
ジェルソミーナも見よう見まねで太鼓を叩きます。
持ち方はだいぶ間違っていました。
もう一度、ザンパノは叩き方を教えました。
ザンパノはまったく叩き方が間違っているジェルソミーナを見かねます。
そして近くの草原から枝を取ってきました。
ザンパノは枝でジェルソミーナをムチ打ちにします。
ジェルソミーナは痛がって後退りしました。
ジェルソミーナはもう嫌になって太鼓を適当に叩きます。
またムチで打たれます。
ジェルソミーナはもう泣きながら太鼓をたたき続けました。
ジェルソミーナの後ろでは子供たちが必死に応援しているんですね。
観客は「ザンパノが来たよ!」というセリフを痛みの感情とともに覚えるんですね。
ジェルソミーナは焚き火を見つめながら、何やらつぶやいています。
ザンパノは何を言っているんだというような奇異な目でジェルソミーナを見ています。
神の世界の呪文のようにジェルソミーナは唱えます。
ここでジェルソミーナが少し神聖な行動をするんですね。
ザンパノはいやらしい目つきでジェルソミーナを見ます。
ジェルソミーナは外に行こうとします。
ザンパノが巡業するオート3輪の荷台には野宿の道具、芸の小道具、衣装、布団。
ザンパノという男は粗野で乱暴な男です。
ザンポーノという豚料理から来ているそうです。
粗暴の象徴ですね。
ザンパノといっしょに寝るのはいやだと、ジェルソミーナは外で寝ようとしますが、無理やり連れ込まれて、手籠めにされてしまいます。
悲しみの表情でジェルソミーナは涙を拭きます。
04.二人の共演
その横でザンパノは眠っていました。
ある村でこの鎖の引きちぎりをやっています。
ジェルソミーナも綺麗な道化の衣装を着て、ピエロの化粧をし、上手く太鼓を叩けていました。
鎖を引きちぎった後の目を押さえてふらふらのザンパノ。
ジェルソミーナに小声で言います。
ジェルソミーナは道化に扮して、役を演じます。
猟師に扮したザンパノ。
ザンパノは ”てっぽう” と発音できずに ”ペッポウ” としか言えません。
ザンパノはライフルを構えてジェルソミーナを狙います。
そして鉄砲を打って、二人は同時に倒れて、寸劇は終わりました。
大拍手の観客たち。
ジェルソミーナは得意げな顔をしました。
ジェルソミーナは満足げでした。
劇中劇の内容は現在のザンパノとジェルソミーナの関係を表していて、私たち観客にとっては物悲しくもあります。
05.豪華な夕食
お金が入ったので、二人はレストランに夕食に行きます。
ザンパノが爪楊枝をくわえてるのを見て、ジェルソミーナも面白げにマネします。
子羊の肉とシチュー、パスタ、赤ワインと豪華な夕食となりました。
お酒に酔ったザンパノ。
ニーノ・ロータの陽気な音楽が冴えます。
ザンパノはジェルソミーナを人扱いしていないのか、人とコミュニケーションを取ることができないのか。
人を寄せ付けたくない素振りをいつも見せています。
とは言っても職業は人を集める、喜ばせる仕事なんですね。
心のどこかでは人を求めている孤独な男です。
店にふくよかなスタイルのいい女性がいました。
ザンパノはさっそく目をつけます。
ザンパノは腕の筋肉を女に触らせます。
3人は店を出ました。
06.置いてけぼり
女とザンパノは車に乗り込みました。
ジェルソミーナは路上に置いていかれました。
石畳を馬がパカパカと寂しく通ります。
そして朝まで二人は帰ってきませんでした。
路上に座り込んでいるジェルソミーナを子供たちが集まって見つめています。
小さな子供がジェルソミーナに自分のおもちゃをプレゼントします。
いつも子供たちが集まってくるジェルソミーナに神聖な雰囲気が感じられます。
ジェルソミーナは施しを受けていました。
ジェルソミーナは走って探しに行きました。
ザンパノは原っぱに横たわっていました。
ジェルソミーナはザンパノの心臓の音を聞きます。
ザンパノは目を覚まし、ジェルソミーナは安心します。
もう一度眠りだすザンパノの寝顔を見て、ジェルソミーナは胸をなでおろします。
あたりの花を見ながら散策するジェルソミーナに、一人の子供が後ろからついていきます。
目の前の枝のマネをしておどけるジェルソミーナに、女の子は笑いました。
やがて目を覚ましたザンパノ。
ジェルソミーナはそばでトマトの種を植えていました。
うるさい騒音の車で、二人は移動します。
ジェルソミーナは人間扱いされていない待遇に段々と嫌気がさして来ます。
車の前には羊飼いがムチを打ってひつじの群れを懸命に進ませていました。
07.孤独
ある村の結婚式に余興として呼ばれた二人。
ザンパノが小太鼓でリズムを取り、ジェルソミーナが陽気にパントマイムをします。
ニーノ・ロータの明るい音楽が宴会をいっそう華やかにします。
未亡人がザンパノを呼んで食事に誘います。
ここでも子供たちに大人気のジェルソミーナ。
子供たちは建物の一室にジェルソミーナを連れて行きました。
そこには病気で寝込んでいる男の子がいました。
ジェルソミーナは男の子のために踊り始めます。
ジェルソミーナはグルグルグルグルと回ります。
そばの子供たちも同時に回り始めます。
家の人が来て、ジェルソミーナと子供たちを追い出しました。
このシーンでは、フェリーニ監督は病気で暗い部屋に隔離されている男の子を見せることで、ジェルソミーナもまた孤独な存在なのだということを示しました。
未亡人とザンパノは二人だけで食事をしていました。
汗だくの未亡人。
ザンパノを誘っています。
夜の相手は必要ないのかという意味ですね。
未亡人は子供に向かって、
ジェルソミーナがやってきます。
未亡人はジェルソミーナの食事を取りに行きました。
ジェルソミーナは小声でザンパノに言います。
未亡人が戻ってきました。
ザンパノはジェルソミーナに向かって、服をもらえてラッキーだというジェスチャーをして、二人は部屋に入っていきました。
ジェルソミーナはザンパノに同調して喜びますが、二人だけになった事を不安に思います。
このジェルソミーナのピエロに扮した不安な表情がとても怖いんです。
夕方になり、一段落したようにタバコで一服をするザンパノを、悲しげな顔でジェルソミーナは見つめます。
ジェルソミーナはメロディを口ずさみます。
ザンパノは、未亡人にもらった服を着て自慢気に言います。
ジェルソミーナは泣き出してしまいました。
08.放浪
ジェルソミーナは一晩中、彷徨い歩きます。
朝になり、昼になり、道の向こうから3人の鼓笛隊が歩いてきます。
ジェルソミーナの表情も心も明るくなります。
そしてジェルソミーナはミサの行列を見物します。
先程の鼓笛隊の明るい音楽とは全く対象的に、人間の業を表現したかのような渦巻いた低音の音楽が流れます。
それは神からの天罰が今にも下りて来そうな恐ろしさを持った曲です。
イエス・キリストの磔の作り物、宗教画の行列が通り過ぎます。
坂道を降りてくるキリスト像を先頭に、オリーブの枝や長い燭台とロウソクを持った子供の行列があとに続きます。
イエスが天使を従えて、この世に現れたかのようです。
周りの見物人はひれ伏して十字を切ります。
ジェルソミーナも敬虔な表情でじっと見つめていました。
豚の丸焼きが露天に吊るされています。
押し寄せる群衆に圧倒されるジェルソミーナ。
何とも象徴的なシーンです。
09.綱渡り
夜になり、一人の芸人が建物と建物に繋がれた一本のロープで綱渡りをしています。
綱渡り芸人はロープから落ちるふりをして、テーブルと椅子を落として、持っている長い棒で巧みにバランスを取ってロープの周りをグルグルグルグル回り始めました。
そしてその天使の翼をつけた綱渡り芸人はロープの上で逆立ちをしました。
観客もジェルソミーナも大喝采です。
ショーが終わり、観客に囲まれながら車に乗ってその場をあとにしようとしました。
数秒の間、ジェルソミーナは綱渡り芸人と目が合います。
お互いに神聖なものを感じ取ったシーンですね。
この家出とも言える旅を通じて、ジェルソミーナの神聖さが段々と覚醒していくのです。
あれだけいた群衆も去り、一人広場に取り残されたジェルソミーナ。
教会の鐘が鳴り響き、ジェルソミーナは淋しさのあまり泣き出してしまいます。
淋しさのどん底の時に、ザンパノのオート三輪の騒音が聞こえてきます。
ザンパノはジェルソミーナを隅に追い詰めて、ひどく殴り、無理やり車に乗せます。
10.ザンパノとイルマット
あくる日の朝、目を覚まし荷台から出るとそこはサーカス団の宿舎でした。
どこからか美しい曲が流れてきました。
ジェルソミーナはその美しい音色に誘われるように部屋を覗きます。
そこではあの綱渡り芸人がバイオリンを弾いていました。
近くの婦人に聞きます。
ザンパノと綱渡り芸人が顔を合わせます。
二人は昔からの知り合いでした。
ショーが始まり、イルマットは見事な空中芸を見せて観客の拍手をもらいます。
イルマットはザンパノを小馬鹿にしたようにささやきます。
イルマットがそっと近寄り、観客席の一番前で見物します。
イルマットが騒ぎ立てて茶化します。
イルマットはザンパノの口上の邪魔をして、鎖を引きちぎる動作をします。
ザンパノが両腕を上げて、深く息を吸い込み、肺と胸を膨らませ力を入れたその時、
観客は大笑いです。
ザンパノはショーが終わっても、怒りを抑えきれません。
何とかイルマットは逃げることができ、喧嘩は終わりました。
あくる朝、ジェルソミーナはイルマットにバイオリンを教えて貰います。
ジェルソミーナは息を大きく吸い込み、トランペットに一気に息を吹き込みました。
イルマットが最初にバイオリンを弾きます。
そのあと、ジェルソミーナがトランペットを大きく吹きました。
ジェルソミーナはもう一度吹きました。
ジェルソミーナは2つの音階で吹くことができました。
二人は行進します。
そこにザンパノが戻ってきます。
トランペットを取り上げ、ジェルソミーナを止めさせます。
イルマットはバケツの水をザンパノの頭にかけました。
周りの男たちがザンパノを止めに入ります。
イルマットは奥の部屋に鍵を閉めて閉じこもりました。
ザンパノとイルマットは警察に連行されて、サーカス団は立ち退き命令が下ります。
11.役立たず
ジェルソミーナはずっとサーカスの跡地にいました。
オート三輪の荷台で寝ていました。
どこからか口笛が聞こえてきて、懐中電灯の暖かな光がジェルソミーナを照らします。
夜にイルマットが先に釈放されて帰ってきました。
二人は横に並んで話をします。
イルマットは大笑いで寝転びます。
ジェルソミーナの本当の悩みは自分が無価値な人間だと感じていることなんですね。
役に立たないから1万リラで母親に売られた。
役に立たないから、ザンパノに人間扱いされない。
そう思い込んでしまっています。
ジェルソミーナは横を向きます。
12.ジェルソミーナの決意
ジェルソミーナは小石をイルマットから受け取り、じっと涙を浮かべながら見つめました。
次第にジェルソミーナの顔に笑顔が戻っていきます。
ジェルソミーナに生きる気力が戻って来ます。
それはイルマットの慈愛です。
神はジェルソミーナにイルマットを使わせ、命を与えました。
イルマットとは "狂人" という意味です。
彼は綱渡りという芸風からいつ死んでも覚悟して生きていました。
性格は柳に風が吹いているようで、風来坊のようです。
イルマットの陽気さ、思いつくことは何でもする軽快さ。
それは善いことも悪いことも超越した本当の自由な生き方。
いつ死ぬか分からない不安を持ちながら、今の一瞬を命を懸けて楽しむ、人助けもする、嫌な奴もからかう。
生死は神の意向にまかせ、”今に生きる”。
こういった生き方が生き物本来の生き方ではないでしょうか?
イルマットの運転で警察まで連れて行ってもらいました。
イルマットとお別れの時です。
イルマットは首にかけていたネックレスをジェルソミーナにかけてあげます。
イルマットとそういって珍しく寂しそうにジェルソミーナと別れました。
ジェルソミーナは悲しんでいましたが、顔を上げてイルマットにお別れの挨拶を涙混じりの笑顔で返しました。
イルマットはスキップしながらマンションの向こう側へ消えて行きました。
13.お似合いの二人
時が経ち、ザンパノは釈放されます。
ザンパノは感慨深げにそして恥ずかしげにタバコをくわえました。
ジェルソミーナは黙って荷台からザンパノのコートを取り出し、ザンパノに着せてあげました。
それは本物の夫婦のようでした。
二人は旅の途中に海岸に立ち寄ります。
ジェルソミーナは故郷に似たその海岸に走って向かいました。
そして実家を思い出していました。
ザンパノは靴と靴下を脱ぎ、波に向かって歩きながら珍しくやさしく言います。
それはそれは光が無数に反射して綺麗な明るい穏やかなシーンでした。
モノクロ映像に遠い沖まで反射した陽光がきらめきます。
ジェルソミーナは恋心の分からないザンパノに苛立って言います。
ザンパノは恥ずかしくてとても口にできないのかもしれませんね。
14.修道院
ザンパノたちは旅の途中で修道女に出会い、修道院で宿を取ることとなりました。
修道女は純真なジェルソミーナに好意を持ちます。
ザンパノたちは食事をもらいました。
ジェルソミーナはイルマットに教えてもらった、あの物悲しい曲を吹きました。
ザンパノはあまりの上手さに食事の手を止めて、聞き続けました。
修道女はジェルソミーナに話しかけます。
納屋の中での就寝前の二人の会話です。
ザンパノは何も答えなくなりました。
ジェルソミーナはトランペットを吹きます。
15.窃盗の罪
夜中に起きるとザンパノは起きて何かをしていました。
ザンパノはジェルソミーナをブチます。
あくる朝、ザンパノたちは僧院を出る準備をしています。
ジェルソミーナの暗い表情に、修道女は話しかけました。
ジェルソミーナは泣きながら僧院を後にしました。
ここでのシーンはジェルソミーナが神のもとに行く未来を予告しているようですね。
ジェルソミーナの汚れなさとザンパノの罪の深さが際立ったシーンです。
牧場、湖を抜けて旅は続きます。
16.殺人の罪
道端に見慣れた車が止まっていました。
そこではイルマットが車の修理をしていました。
ザンパノとイルマットが鉢合わせをします。
ザンパノはイルマットの車の修理道具を蹴散らしました。
足だけが見えるのみでザンパノの顔が写っていないところが不気味で恐ろしいですね。
ザンパノがイルマットに襲いかかります。
この前の喧嘩での怒りが治まらないザンパノはイルマットを殴ります。
ザンパノは殴り続けました。
イルマットはふらふら歩いた後、そのままその場にひれ伏してしまいました。
ジェルソミーナがあわてて駆け寄ります。
ザンパノが近寄ってきて、イルマットの足を蹴って様子を確認します。
ザンパノはイルマットのうなだれた指先を見て、死んだと分かりました。
頭の打ちどころが悪く、イルマットは後頭部を車にぶつけて死んでしまいました。
ジェルソミーナが気が狂いそうになり叫び出します。
ザンパノは狼狽しながら周囲を確認します。
ザンパノはイルマットの両足を持ち、遺体をひきずって、橋の下に隠します。
その様子を息を飲んでジェルソミーナがじっと見つめます。
ジェルソミーナの身体が段々と震えてきました。
そしてイルマットの車を橋の下に突き落とし、車は炎上します。
ザンパノはジェルソミーナの腕を引っ張って車に乗せて、逃げるように去っていきました。
ザンパノは警察に捕まるのを恐れて、遺体を橋の下に放置して車の事故に見せかけてその場を立ち去ったのです。
17.心の崩壊
その間の車から見える風景は葉が枯れて落ちた朽ちた木ばかりです。
黒い木枝がおぞましさを増幅させます。
ザンパノたちは食うために芸をしながら旅を続けました。
季節は冬。道の隅には溶けないで残っている雪が鬱蒼と暗在しています。
ザンパノの口上には笑顔はなく、淡々としゃべっています。
思い詰める時間が多くなっているジェルソミーナ。
ザンパノの言葉にはっと気が付き言葉を発します。
ジェルソミーナは精神が崩壊していました。
道化の化粧で発するこのジェルソミーナの言葉に、事件の凄みが感じられます。
ザンパノは事件以降、周囲を確認する癖がついていました。
車を止めて、ジェルソミーナに話しかけます。
ジェルソミーナはザンパノが車から離れた隙に、ふらふらとどこかへ行こうとしていました。
ジェルソミーナは穢らわしくザンパノを拒絶していました。。
その間の雑用、看病をザンパノはしていました。
ザンパノたちの移動が続きます。
18.遺棄の罪
塀があって風除けになる場所でザンパノが火を起こしていました。
ジェルソミーナが久しぶりに荷台から起き上がってきました。
ザンパノのジェルソミーナへの態度の冷たさが明らかに変わってきているんですね。
ジェルソミーナへの思いやりが少しずつにじみ出ています。
ジェルソミーナの気分の波が一段と激しくなっているんですね。
今は少し晴れやかな気分のようです。
ザンパノは火に焚べていた鍋を味見をします。
ジェルソミーナは食事の味を整えて、ザンパノに皿を渡します。
急にジェルソミーナの様子が豹変しました。
ザンパノはジェルソミーナが病気になったと分かりました。
そう言ってザンパノは頭を指さします。
ジェルソミーナはそのまま外で寝ようとして横になります。
少し時間が経ち、ジェルソミーナは眠りにつきました。
ザンパノはジェルソミーナの服と毛布を外で寝ているジェルソミーナのそばに置きました。
毛布を優しくかけてやります。
ポケットにあったお金をジェルソミーナの手に握りしめさせました。
そして荷台の幌を閉めようとした時、トランペットに目が止まります。
ザンパノはジェルソミーナが起きないようにトランペットをそばに置いて立ち去ります。
車を押して公道に移動する時、カメラはザンパノがジェルソミーナを見つめる目線になり、ジェルソミーナの姿は段々と小さくなっていきました。
19.精霊の声
それから何年が経ったのでしょうか。
とある町のサーカス団でザンパノは相変わらずの ”鋼鉄の肺男” の芸をしていました。
白髪まじりのザンパノは声も少しかすれて年を取っていました。
サーカスの出番の合間にその町を散歩します。
ふと、精霊のような歌声が一瞬の間だけ聞こえてきました。
ザンパノはすぐに振り返りました。
それはザンパノが聴いたことのある曲でした。
気のせいかと思い、また前を向いて歩き始めます。
するとまた、ザンパノを呼び止めるかのように今度ははっきりとその声が聞こえてきます。
ザンパノはまた後ろを振り返ります。
声の方に行ってみると、娘が洗濯物を干しながら、その曲を口ずさんでいました。
そのまわりにはちいさな子供が輪をつくって、スキップしながら回っていました。
真っ白な純白のシーツを大きく広げながら、娘が歌っています。
ザンパノは心が動揺して黙って立ち去ります。
ザンパノの前に横たわる有刺鉄線がザンパノの罪を示すような茨のムチに見えてきます。
20.ザンパノの贖罪
サーカス会場ではザンパノの出番が始まりました。
ザンパノがうつむき加減で入場してきました。
年老いた体つきになったザンパノ。
この口上は作品中に何度も繰り返されて出てきます。
ですが、その都度感じる意味合いが違うんですね。
同じ口上を言うことで、効果があります。
それは職業として「食べていかねばならない」ことを語っています。
そして「時の変遷」です。
口上は同じですが、場所、相棒そして老いの変遷がはっきり現れます。
悲しいほどに。
チャップリンの「ライムライト」でのセリフです。
そしてその繰り返しはリフレイン効果です。
音楽や詩は「流れ」を想起させるんですね。
物語に「普遍性」と「形式美」を観るものに植え付けます。
の繰り返しもリフレイン効果です。
出番を終えたザンパノは酒場で酒をあおり、荒れに荒れました。
そして男たちに突っかかり、喧嘩をします。
そこにはザンパノの意思はなく、気分のまま、荒波に弄ばれているようでした。
ザンパノに突然襲いかかってきたのは、空虚感ですね。
突風、寒さ、どうしようもない孤独感です。
これまでどこかでジェルソミーナが生きていると信じていたのだと思います。
なので今までザンパノは正気で生きてこられた。心は保たれていたんです。
ですが、ジェルソミーナはもうこの世にいないと知りました。
「後悔の念」
ただ、ただ、自分への「怒り」。
「淋しさ」が容赦なく襲いかかってくる。
ジェルソミーナを無くして「生きる意味」を知り、そしてその希望を無くしたと知った。
酔っ払ったザンパノはふらふらと海岸へ向かいます。
ジェルソミーナの故郷のような海岸です。
夜の海岸。黒い液体のような波が何度も何度もザンパノに押し寄せてきます。
ジェルソミーナがザンパノと生きていくと決めた、あの光が無数に反射し輝く海岸とは対照的なものでした。
あの時、ジェルソミーナはザンパノに言いました。
ジェルソミーナが死んでいたという浜辺にザンパノは腰を下ろします。
そしてジェルソミーナを想い、夜空を見上げます。
「もう天国に行ってしまったんだな、俺を置いて...」
そんな言葉が聞こえてきそうです。
そして、自分はもうこの世では独りなのだと気付きます。
息遣いが荒くなり、周囲を見渡し、怯え、そしてザンパノは浜辺に泣き崩れました。
砂を掴んだその手に本当に掴みたかったものは、時という月日が消し去っていました。
カメラは大きく写した泣き崩れるザンパノから、徐々に引いていき、フレームには優しい小波と少し明るい月がザンパノを慰めるように入ってきました。
そして、ザンパノとジェルソミーナの物語は終わりました。
21.男女関係とは
凹凸という漢字があります。
凹+凸で▢
どんな能力、生活、境遇の人でも、その長所や短所は、ピースが会えばこのように綺麗にくっつくことができるんですね。
男女の関係というのは分からないものですね。
お互いに話さないでも心が通じている男女もいます。
ザンパノは旅芸人で出会いと別れが日常茶飯事。
情を持っても仕方がないのできっとドライなのでしょう。
ですが、人間だれしも「孤独」が付きまといます。
普段は日々の追われる生活や一時のコミュニケーションで紛らしているだけです。
ザンパノはそういった感情についてあまり考えたり、言葉にすることはなかったのでしょう。
毎日連れ添ったローザと死に別れて、助手がほしかったのと同時に、自身も淋しかったのだと思います。
ジェルソミーナを引き取った後も、行きずりの女性との関係は相手を変えて続きます。
もう、悪習慣になっているんですね。
ジェルソミーナに家出をされたり、イルマットと芸の練習をするのを見て、少しずつですが、淋しさや嫉妬が見えてきます。
淋しさは誰かと一緒の時は感じませんが、近くにいなくなると、出てくる感情ですね。
イルマットへの怒りの原因はこのことかもしれません。
そしてジェルソミーナへの暴言、暴力の原因は、自分のモノが意のままにならない苛立ちから、大事な人が離れて行ってしまう恐れからに変わっていっています。
一方のジェルソミーナ。
はじめは何とも思っていなかったザンパノ。
いつからか、ザンパノの役に立ちたいと思い始めるんですね。
ジェルソミーナは強制された雑用を自分の「役割」に変えていった。
役割を積極的にこなすことで「自己肯定」していったんですね。
最後には料理のできなかったジェルソミーナがザンパノの料理の味付けを整えることができるまで成長します。
ザンパノが惚れ聞くほどまでに、ラッパの演奏が上達します。
そして自分の存在を愛し始めます。
その温かさがザンパノにも影響し、しっかりとザンパノの支えになっていきました。
ジェルソミーナは純粋な娘です。
楽しい時はパントマイムで表現し、笑顔をみせ、悲しい時はつぶらな瞳が涙でキラキラしています。
淋しい時ははっきりと言動に出します。
そんなザンパノには皆無な感情表現に、彼女の豊かな心に、彼は惹かれていったのだと思います。
心理学者や精神科医は男女関係を「恋愛と依存」に分けます。
悲惨な境遇で過ごした人間のそれは「依存」であると両断します。
ですが、過去も今も将来も困難で辛いことの多い彼の人生に、自分の持ち合わせていない武器を持っている人に頼り切ることを誰が責めることができるでしょうか。
気持ちのままに、心の平穏を求めるその行為を悪いことだと本当に言い切れるでしょうか。
責任は二人だけで背負えばいいのだと思います。
二人で苦しみを分かち合い、受け入れればいいのだと思います。
他人に善悪を判断する権利はないと思います。
22.罪と贖罪
作品の解釈は人それぞれでいいと思います。
それが芸術作品の特徴であって、象徴的な理由だと思います。
ザンパノはどれほどひどい男なんだと言ってしまうくらいに罪を犯します。
「人身売買、強姦、暴言、暴力、窃盗、殺人未遂、殺人、遺棄」
ここまでザンパノに罪を犯させている所に、フェリーニ監督は彼に人間の業をシンボル化させています。
当然そこには神の存在が見えてきます。
ザンパノという罪だらけな孤独な男に対して、神はジェルソミーナという天使を遣わしました。
貧しい放浪生活の中に光を与えました。
そして、罪を犯していく人間から、神はジェルソミーナという安らぎを取り上げて、贖罪を求めます。懺悔を促します。
神は許しを与えて、また新たなジェルソミーナを違う形で遣わしてくれるでしょう。
23.人の存在意義
人は皆神の子です。天使だと思います。
それは私の宗教観からではなく、思いつきからです。
人間が人との関係を断てないようになっているのは、あなたがご自身のことで感じる通りだと思います。
孤独の中では生きていけないようになっています。
コメントを下さった方で、「孤独な人は早死しやすい」と教えていただきました。
どうしたら人と関係を持つことができるのか。
それは相手の「役に立つ」ことです。
「役に立つ」ことで相手は受け入れてくれます。
私たちも相手に役に立ってもらえば、受け入れると思います。
相手の役に立つこと、それが相手にとっては救いとなり、「感謝」するようになります。
相手に「感謝」して、万物に「感謝」して、神様に「感謝」する。
感謝の対象。その人が天使でなくて、何なのでしょう。
役に立つということは、技術のみではありません。
技術のみで心が無ければ、感謝が持続しないからです。
役に立つの原型は「存在してくれること」です。
そばにいるだけで「感謝」が生まれる。
そんな単純なことができれば、相手は感謝してくれるのです。
「人の存在意義」はただ「生きている」ことなのです。
生きてさえいれば、どんな小石でも光を放つことができ、明かりを照らすことができ、誰かに気づいてもらえます。
あなたはこの作品でジェルソミーナにそのことを教えてもらったことでしょう。
悲劇的なエンディングではありますが、ジェルソミーナの命が消えたことで、それまで温かかった小石が際立ち、きらびやかなトランペットが奏でる美しい音色が存在したことをはっきりと私達に示したのだと思います。
24.さいごに
ここまでお読みくださって、本当にありがとうございます。
世界中の誰もが認める名作「道」を真に理解して、皆様に伝えることができるのか、正直不安でしたし、今もまだお伝えできたとは思いませんが、私の拙い人生を省みて今の記述が精一杯でした。
ですが、皆さんに何かしら感じていただけたとは思います。
ぜひとも、本作品を観ていただいて、私の感想を貴方独自のご経験から、塗り替えていってほしいと思います。
それでは、次の作品もよろしければお付き合いくださいませ。
ありがとうございました。