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『リバー・ランズ・スルー・イット』~ただ、ただ、美しい...叙景詩であり叙情詩。ブラックフット川が育んだ賜物~

『リバー・ランズ・スルー・イット』

 

 

皆様、こんにちは。

 

今回の作品は情景がとても美しい映画となっております。

 

カメラという動画記録が作者の目を通して、どれだけ真の自然を美しく詩的に描けるか。

 

私達の目、音、触感、匂いなどの感覚器官をどれだけ満足させることができるか。

 

いつでも観たいという気持ちにさせることができるか。

 

絵画でもなく、音楽でもなく、写真でもなく、すべての思い出をパッケージ化する映画の可能性を広げてくれる作品です。

 



冒頭シーンでは、川のせせらぎの心地よい音と共に、川面の優しいゆらぎが映し出されます。

 

一人の老人が慣れた手付きで針にドライフライという疑似餌を付けています。

 

老人のナレーション:
「昔私が若かった頃、父は私に言った、”ノーマン、お前はものを書くことが好きらしい”」

 

「”それならいつの日か、家族のことを書け”」

 

「”何がなぜ起こったのかが分かるだろう”」

 

モンタナ州ミズーラ、大自然の豊かな森林とそこを流れる大きな川が横たわった町に住むマクリーン親子。

 

父親は牧師をしていて、厳格ではあるが、二人の息子に愛情を持って育てています。

 

母親は父の教育方針についていくという感じでどことなくマクリーン家では存在感がひかえめ。

 

長男のノーマンがこの作品の主人公でナレーター役です。

 

この作品は年老いた彼の追憶という形で描かれています。

 

父に比較的従順な息子ノーマン。

 

次男のポールに対しては兄弟ならではの嫉妬心があり、それでいて愛情もあります。

 

どこか神にも愛されているかのような孤高なポールに対して、ノーマンは人間的。

 

次男、ポールは厳しい父の教育環境にも反発しながら、自分の芸術性を高めて成長していきます。

 

牧師の父の厳しい教育環境によって、卑屈になることはなく、彼独特の生来の精神性をそのまま持って成長していきます。

 

モンタナ州ミズーリのとある森林業のさかんな町で二人の兄弟は育ちます。

 

舞台は第一次世界大戦後のアメリカの好景気1920年代です。

 

牧師の父の教育のもと、厳格な質素な見本的な生活を送っていました。


父親はメトロノームでリズムを刻みながら、フライフィッシングのロッドのキャストを息子たちに教えました。

 

兄弟の友達は学校で学んでいますが、マクリーン兄弟は父の元で読み書きをじっくり学びました。

 

 

老人のナレーション:
「あの頃のモンタナは最適の地だった」

 

「朝露に濡れてるような世界」

 

「限りない神秘と可能性に満ち満ちていた」

 

兄のノーマンは新聞記事の要約を何度もさせられます。

 

心地よい午前の勉学の後、午後は開放的に遊びに繰り出して行きます。

 

父親は文章を書くことの他に、人生を楽しむこととしてフライフィッシングを息子たちに教えます。

 

フライフィッシングの中には自然との調和の中に神を感じてほしいという思いがあったのでしょう。

 

父親は釣りの中にも精神性を追求させます。

 

釣り竿を後ろに傾け、糸を川面に投げ込むリズム。

 

竿を後ろにしならせ、停止させる。

 

すると急停止した竿によって、糸は美しい横Uの字を一瞬描き、キャストの瞬間まで糸の緊張が続き、ゆらゆらと流れる水面にフライが放たれます。

 

昆虫たちが生命の弧を描き乱舞するような軌道を模して...。

 



兄弟は町での大人のケンカを見て真似てみたり、売春宿をこっそり覗き見したり、社会というものを自分の目でしっかり確認しながら成長します。

 

ポールは朝食の麦を食べるのを拒否したことがありました。

 

父親は食べ終わるまで食卓を離れることを許しません。

 

しかしポールは昼食まで拒み続けました。

 

老人のナレーション:
「ポールは体の芯に強さを秘めていて、その強さを自分で知ってた」

 

ポール:「大きくなったら何になる?」

 

ノーマン:

「牧師かな、ボクサーでもいい」

 

「お前は何に?」

 

ポール:「プロのフライ・フィッシャーマン」

 

ノーマン:「そんな職業ないよ」

 

ポール:「ないの?」

 

ノーマン:「ないさ」

 

ポール:「じゃあボクサーだ」

 

ノーマン:「牧師はイヤか?」

 

ポールは苦笑いしました。

 

 

青年になり夜中に家を抜け出し、町の仲間たちと夜遊びします。

 

町を流れるブラックフット川。

 

その中で、ポールは度胸試しをしようとボートで急流下りを提案します。

 

ポール:

「いい考えが。歴史に残るぞ」

 

「ボートを調達して滝を下るんだよ」

 

「英雄の葬式をしてくれる」

 

ノーマン:「町のキングになる」

 

ポール:

「有名になって新聞に写真が出る」

 

「やるぞ、絶対にな」

 

意気揚々とボートを運び滝にやってきます。

 

水量が浩大で、水流が獰猛で、飛瀑する滝をまざまざと眺め入っていました。

 

仲間は怖気づき縮みあがって参加しません。

 

ノーマンは弟ポールへの対抗心と兄であるプライドからでしょうか、心ならずも激流と堅固な岩々、急落下する滝に挑戦します。

 

兄弟はオールを匠に扱い果敢にボートを操縦し、阻む岩からコースを変えます。

 

しかし待ち構えていた滝の急降下に真っ逆さまに落ちてしまいます。

 

渓流の瀑布に飲み込まれて激流に振り落とされてしまいました。

 

岩場に激突し裂けたボートを発見した仲間たち。

 

慌てて駆け寄った一人の仲間の背後からビックリさせるようにポールが出てきて、取っ組み合いをします。

 

ポールの確固たる決意と恐怖心を知らない度胸、普通の人とは違う命の危うさ、型破りで破天荒さを秘めていました。

 

簡単に命を ”賭け” に捧げました。

 

 

父に説教をされるノーマンとポール。

 

父親:

「教会に行って神の許しを請え」

 

「母さんは死ぬほど心配したんだぞ」

 

母親:「キャメロンさんが電話を...」

 

父親:「ボートはどこから?」

 

ポール:「借りた」

 

父親:

「借りた?」

 

「まったく何てことを」

 

「自分らで働いてボートを買って返せ」

 

ノーマン:「はい、父さん」

 

ポール:「僕が言い出したんです。僕が...」

 

ノーマンが一人朝食を食べていると、ポールがやってきます。

 

ノーマンは弟への劣等感から馬鹿なことをして母を心配させたこと、父に怒られたこと、そして弟に擁護されプライドを傷つけられたことに苛立ちをおぼえていました。

 

一方、川下りの興奮から冷めやまない弟。

 

ポールは苛立っている兄の朝食に嫌がらせをします。

 

ポール:

「何をのせた?」

 

「足りないよ、サーディンものせろ」

 

ノーマン:「サーディンは嫌いだ」

 

ポール:

「あいつら自分たちもボートに乗ってたと言うぜ」

 

「僕なら新聞に書く、”兄弟の快挙”」

 

「せめて学校新聞に、真相をね」

 

ポールはサンドイッチにサーディンを大量にのせてパンを押し付けました。

 

ノーマン:「サーディンは嫌いだ!」

 

そこでノーマンとポールは生まれて初めて殴り合いのケンカをしました。

 

母親が決死に止めに間に入りますが、ケンカの勢いで足を滑らせてしまいます。

 

母親:「二人とも止めて!」

 

ポール:「母さんを殴ったな!」

 

ノーマン:「殴ったのはお前だ!」

 

母親:「足がすべったのよ!」

 

老人のナレーション:
「兄弟ケンカはそれ一度」

 

「どっちが強いかを言い合ったが、疑問に答えが出ないときは若者は蒸し返すことをしない」

 

「僕らは神の教え通り、仲の良い兄弟に戻った」

 

 

深いミズーラの山の森林に鳥の鳴き声がこだまします。

 

大量の太陽光線が当たり黄金に光った川面。

 

豊富な水量の川に荘厳な川のせせらぎが響き渡ります。

 

移動する度に陽気に跳ねる水しぶきの音。

 

時の緩急をもたらすリールを小気味よく巻き上げる音と竿のしなる響き。

 

ラインの軌道で瞬きほどの短い時間に美しいUの字を何度も形づくります。

 

ノーマンは針に引っかかった鱒をいたわるように自分の近くに寄せてきて、銀色に光るお腹を優しく抱きあげて、微笑みます。

 

ノーマンは向こう側でポールが釣りをする姿に美しさを感じました。

 

老人のナレーション:
「その時、僕の目は捕らえた」

 

「ポールは父から学んだ技を一歩超えて、自分のリズムをつかんだのだ」

 

ノーマンは川の流れ、鱒の動き、ラインの軌道、竿のしなりすべてに調和し一体となったポールの姿に見入っていました。

 

 

最後に親子3人で釣果を競います。

 

ノーマンとポールが釣ったきれいな文様の鱒が並びます。

 

父親:「両方とも見事だ。」

 

父親は籠からそれは大きな鱒を得意げに取り出して、並べました。

 

ノーマンとポールはこの大きさはありえないという顔でした。

 

父親:

「今日は皆に神の恵みがあった」

 

「それも特に父さんにね、ハッハッハッ」

 

父親は大きな鱒を釣り上げて、得意げに満足に笑いながら我が家に帰途に着きます。

 

 

やがてノーマンは故郷を離れて勉学のために、アメリカ東部にあるダートマス大学に進学します。

 

そして文学を修め、スポーツを楽しみ、仲間との交流で人間を知り、成長します。

 

ここに幼き頃から習慣としていたノーマンの文芸の才能が花を咲かせます。

 

ポールは地元の大学に入り、その間もブラックフット川で幻の大物を追い続けていまし

た。

 

大学を卒業した後、近隣の市に移り新聞記者として働いていました。

 

ポールもまためったに父と母の元に帰らなくなっていました。

 

ノーマンは意気揚々と煙を吐き出す機関車とともに故郷に帰ってきます。

 

車窓には田園、森林、丘、谷など懐かしい故郷の風景が広がっていました。

 

ノーマンは懐かしそうに笑みを含ませながらその風景を見つめていました。

 

故郷を離れてから6年の歳月が経っていました。

 

プラットホームでは少し老いた父と母が愛する長男の帰郷を待ちわびていました。

 

停車しようとする列車にノーマンを確認した父親は喜びのあまり手を高らかに振ろうとしましたが、威厳をもたそうとして下ろしました。

 

ノーマンは家の雰囲気にどことなく変化を感じていました。

 

それはノーマンが帰郷したにもかかわらず、ポールが顔を見せに来なかったという些細な出来事からでした。

 

ノーマンは自らポールが働く新聞社を訪れて会いにいきます。

 

雑談中のポールはドア越しにもたれかかっていた見覚えがある顔を発見しました。

 

兄弟二人は抱き合い、6年ぶりの再会を喜びます。

 

ノーマン:「ゆうべは?」

 

ポール:

「すまん、帰ろうと思ったが..」

 

「おやじは言ったろ?”ノーマン、書斎へ”」

 

「本当に教授みたいだ」

 

「乾杯しよう」

 

ノーマン:「昼間から?」

 

ポール:「東部でなまったか?」

 

ノーマン:「言ったな」

 

ポール:「東部で釣りは?」

 

ノーマン:「全然」

 

ポール:

「全然?」

 

「ブラックフットへ行こうぜ」

 

 

懐かしきブラックフットの川に帰ってきたノーマンは立ち止まって微笑みました。

 

6年前と何も変わらない懐かしい生命の匂いと、輝きに満ちたこがね色と濃緑の世界が横たわっていました。

 

久しぶりに共に釣りを興じた兄弟たち。

 

ブランクで勘が戻ってこないノーマンに対して、ポールは悪気なく手ほどきします。

 

ポール:

「リールをうまく使うんだ」

 

「もっと遠くへ」

 

「少し向こうへ」

 

「そのまま糸を流れの中心に投げるといい」

 

「勘はすぐ戻るよ」

 

ノーマンは少しムッとします。

 

嫌がるノーマンに気づいたポールは兄を思い遣って一人で上流へと向かいました。

 

ノーマンは慎重に狙いを定め、竿に全集中します。

 

竿のしなりを解き放ち、ラインの重みを感じながら鱒が潜んでいそうなポイントにキャストします。

 

川の流れとドライフライの調律があった瞬間でした。

 

鱒は川面を移動する影にたまらず飛びついた瞬間、ノーマンはまたとないタイミングで針を鱒の口に合わせました。

 

鱒が川面の上をピチャピチャと跳ね踊る軽快な音に合わせてリール音が追いつきます。

 

鱒の重みで竿とラインが柔らかくしなりました。

 

久方ぶりの鱒との格闘に勝利したノーマンは満足感を体中で味わいました。

 

ノーマンはふとポールのことが気になり覗きに行きます。

 

ポールはノーマンと会っていない間にまた技術が上がっていました。

 

川と一体化する弟に見惚れていました。

 

その時ノーマンの弟への劣等感は憧れ、敬意の念そして愛情に変容していました。

 

帰郷しても何も変わらない雄大な川の偉大な包容力がノーマンの心を包み込んでいました。

 

老人ノーマンのナレーション:
「”シャドウ・キャスティング”」

 

「水面すれすれに糸を泳がせて虹鱒を誘う」

 

「ぼくのいない間に弟はアーティストになっていた」

 

 

しかし、ポールの私生活は荒れ果てていました。

 

ある夜の独立記念日のパーティーでノーマンはジェシーという女性に一目惚れします。

 

そして兄弟でダブルデートになります。

 

ポールが連れてきたのは先住民の女性です。

 

まだまだ差別が色濃く残る1920年代。

 

ノーマンたちがやってきた酒場では先住民の立ち入りが禁止されていました。

 

しかしポールはかまわずに入店します。

 

周りの客の目線に対して、堂々と睨みつけるポール。

 

ジェシー:「とてもきれいな髪の毛ね」

 

先住民メイベル:「切ろうかと...」

 

ジェシー:「ダメよ、もったいないわ」

 

さきほどまで店員の態度に憤っていたメイベルはポールの方を見てにっこりと笑いました。

 

ノーマンはジェシーの優しい人柄を知りました。

 

そして4人は出会いを祝して乾杯します。

 

ノーマン:

「”ロウソクは両端から燃え、じき燃え尽きる”」

 

「”友も敵も分け隔てなく今宵を楽しもう」

 

ジェシーはノーマンの即興の詩に驚きと尊敬の念を持ってノーマンを見つめます。

 

新聞記者としての記事も有名で社交的なポールとジェシーは気が合います。

 

先住民の女性とポールは激しくも華麗なダンスを周りの客に見せつけるように踊りました。

 

年老いた閉鎖的な時代を爽快に突き抜けるような二人のダンスでした。

 

ポールの破天荒な性格は少しも変わっておらず、どことなく生まれつきの反抗心がそのまま閉鎖的な町やその時代に対しても不服従を貫き通すように拡大した感じでした。

 

新聞記者という職業からもそんなポールの気質を垣間見ることができます。

 

ノーマンもジェシーをダンスに誘いました。

 

ノーマン:「弟には到底及ばないが踊らないかい?」

 

 

あくる日、ノーマンはジェシーに告白のラブレターを送ります。

 

ノーマンの手紙:「

ジェシー

 

月が名残惜しげに

 

山かげに消えようとしている

 

僕の心は歌っている

 

何かのメロディーではなく

 

何か別のものに合わせて

 

記憶の中を、歌が流れていく

 

鹿しか足を踏み入れたことのない緑の草原

 

緊張した僕の腕の中で踊っている

 

君の思い出と共に...

 

ノーマンより

 

 

ポールは昼間に酒を飲むことがあり、夜には博打小屋に入り浸って膨大な借金をしていました。

 

ある夜、ノーマンは警察署からポールがケンカで先住民のメイベルと共に捕まっているという連絡を受けます。

 

身柄を引き受けた帰り道。

 

ノーマン:

「もし金が要るなら...」

 

「金だけでなく何でも...」

 

ポール:「彼女の家はすぐその先だ」

 

ポールはノーマンの言葉を遮りました。

 

ノーマン:「遠慮せずに...」

 

ポール:「曲がってくれ」

 

ノーマンはジェシーに頼まれてハリウッドから帰郷していたジェシーの兄を釣りに連れていきます。

 

ノーマンはポールに頼んで釣りの約束をしました。

 

ジェシーの兄は売春婦を連れて酔っ払ったまま釣りに来ました。

 

呆れ果てたノーマンとポールはジェシーの兄に愛想を尽かします。

 

ポール:「あいつは?」

 

ノーマン:「知るか」

 

ポール:「おれたちで助けるんだろ?」

 

ノーマン:「あんな奴どうやって?」

 

ポール:「釣りに誘ったろ?」

 

ノーマン:「奴は釣りもモンタナも僕も嫌いなのさ」

 

ポール:「人の助けを感じないのさ」

 

ノーマンは彼の言った言葉に、ポールの顔を見ました。

 

ポールは自分もそうかもしれないと感じたと思います。

 

ポールは自分を憐れむようにジェシーの兄のことを感じたと思います。

 

ジェシーの兄は日中裸で寝てものすごい日焼けになりました。

 

ジェシーの兄を家まで送った時にノーマンとジェシーは険悪になります。

 

 

その夜、一家は久しぶりに夕食を共にします。

 

うなだれて食が進まないノーマン。

 

ポールは陽気に父と母を会話で楽しませます。

 

父親:「どういう記事を書いているんだ?」

 

ポール:「マクリーン牧師一家はロースト肉の夕食を囲んで、長男以外は楽しい時を過ごした」

 

母親:「どうしたの?」

 

ポール:「面白くない、面白くない男」

 

ポールはジェシーがノーマンに言ったセリフを言いました。

 

父親:「人間の取り柄はそれだけではない」

 

ポール:「退屈でもいい」

 

母親:「お前はいい息子よ」

 

ポールは親孝行にも父と母をたくさん喜ばせました。

 

ポール:「母さん、うまかったよ」

 

帰ろうとするポールに父と母は落ち着きなく不安そうに寂しがります。

 

ポールが退席した後、父と母は気落ちしてそのまま食事は終わりました。

 

ノーマンのいない間、父と母にとってポールは太陽のような存在になっていたんですね。

 

ジェシーの家族みんながジェシーの兄に絶えず気をつかうシーンと似たものがあります。

 

ジェシーの一家は落ちぶれた家の希望のような存在として、ジェシーの兄に過度に丁重に接していたんですね。

 

人間の寂しさ、喪失感、空虚感を感じる一幕だと思います。

 

 

ノーマンにかねてから応募していたシカゴ大学から教授への依頼がやってきました。

 

ノーマンは手紙を読み、歓喜に震えます。

 

父親の書斎から聞こえてくるワーズワースの詩の一節が聴こえて来ました。

 

ノーマンは静かに近寄りその声に呼応し目を合わせながら共に吟じます。

 

 

Splendor in the Grass」
『草原の輝き』

 

Not in entire forgetfulness and not in utter nakedness.
すべてを忘れることなく、また赤裸々でもなく、

 

But trailing cloud of glory do we come from god who is our home.
我らは栄光の雲から出ずる。神は我らが家なり。

 

Though nothing can bring back the hour of splendor in thegrass, of glory in the flower, we will grieve not.
草原の輝きはもはや戻らず 

 

Rather find strength in what remains behind.
花は命を失っても後に残されたものに力を見いだそう。

 

In the primal sympathy which having been must ever be.
本能的な思いやりのなかに、

 

In the soothing thoughts that spring out of human suffering.
苦しみの末の和らぎのなかに、

 

In the faith that looks through death. 
永遠なる信仰のなかに、

 

Thanks to the human heart by which we live, thanks to itstenderness, its joy, its fears.
生きるよすがとなる人の心。その優しさとその喜びに感謝しよう。

 

To me, the meanest flower that blows can give thoughts that dooften lie too deep for tears.人目にたたぬ一輪の花も、涙にあまる深い想いを我にもたらす。

 

 

離れていくポール、離れつつあるノーマンたちへの寂しさ、惜別。

 

父親は信仰の中に心の安らぎ、生きる目標、救いをを求めていました。

 

父親もノーマンもこの詩を暗唱している。

 

人生で一番この詩がふさわしい時に思い浮かぶ。

 

苦々しくも思い出深いこの父の書斎で。

 

このシーンに父親とノーマンのこれまでの人生が正しかったであろうことが涙を持って伝わってきます。

 

 

ノーマンとジェシーの家族はジェシーの兄が西海岸に戻る見送りをします。

 

ジェシーの兄ニールが帰郷した時、彼は虚栄心でいっぱいでした。

 

家族の期待を一身に背負っていました。

 

自分を成功者と見せようとした苦悩は計り知れないものです。

 

そして今、暖かな安らぎの下、故郷で癒やされたニールはまた西海岸に戻ります。

 

ゆっくりゆっくりと列車はこの町を離れていきます。

 

乗客とその家族の運命を背負ったその堂々とした力強さと雄叫び。

 

列車は夕陽の向こう側に静かに消えて行きました。

 

見送りの後、ノーマンとジェシーは近くを散歩します。

 

ジェシー:「兄が来年戻ってきたら相手を?」

 

ノーマン:「君がそう望むなら」

 

ジェシー:「兄は戻らないわ」

 

ノーマン:「向こうにも友達が...」

 

ジェシー

ロナルド・コールマン?」

「友達が欲しいくせに人って素直じゃないのね」

 

ノーマン:「どうしてかな」

 

ジェシー:「泣きたいけど我慢するわ」

 

涙が頬をつたうジェシーにノーマンはそっとハンカチで涙を留めてやります。

 

ノーマン:「見せたいものが」

 

ジェシー:「何かいいものなら」

 

ノーマン:「読めよ」

 

そう言ってノーマンはシカゴ大学からの誘いの手紙を読ませました。

 

ノーマン:「どう思う?」

 

ジェシー

「どう思う?すごいじゃないの!」

 

「シカゴに行けるなんて!すばらしいわ」

 

ノーマン:「知ってる?」

 

ジェシー

「私はここヘレナしか知らないわ」

 

「おめでとう、ノーマン!」

 

ノーマン:「僕は迷っている」

 

ジェシー:「モンタナはどこへも行かないわよ」

 

ノーマン:「モンタナじゃない」

 

ジェシー

「じゃ何なの?」

 

「何よ」

 

ノーマン:「君から離れたくない」

 

ジェシーはノーマンにしがみつくように抱きつきました。

 

 

 

 

ノーマンがジェシーとの婚約をポールと祝ったその夜、明朝親子3人で釣りをしようと言い残して、ポールはまた危険な賭けポーカーの闇に消えていきました。

 

いつもなら約束の時間を守るはずのポール。

 

30分過ぎてやっと姿を現しました。

 

ノーマンはポールの身の安全に心底安心しました。

 

4人で朝食を取る中、ノーマンはシカゴ大学の職が決まったと家族に告げます。

 

 

 

 

そして歓喜の中、親子三人で釣りに行きました。

 

父親:

「私は今日は上流へ行くとしよう」

 

「穴場がある」

 

ポール:「きっと釣れるよ。きっと釣れる」

 

 

ポールは陽気に父親を送り出しました。

 

ポール:「今日はいっしょに釣ろう」

 

ノーマン:「いいね」

 

大きな岩が沢山横たわり、川のせせらぎの高低が大きく、その音は深く川そのものが呼吸をしているかのようでした。

 

早速ノーマンは鱒をゲットしました。

 

そして苦戦を強いられてるポールをよそに、ノーマンはまた一匹釣り上げました。

 

ポールは前夜から酒と賭け事で、心身ともに疲れていました。

 

なかなか釣れず、イライラしています。

 

ノーマンにドライフライの種類を尋ねます

 

ポール:「針は何を?」

 

ノーマンはわざと聞こえないフリをします。

 

ノーマン:「何て?」

 

ポール:「針は何を?」

 

ノーマンは今度は少し笑いながらまた聞こえないふりをします。

 

ノーマン:「聞こえない」

 

ノーマンの悪だくみを理解したポールはまた呼びかけます。

今度はポールが声を発さず口パクだけで言います。

兄弟だけが幼い頃からしている言葉遊び。

 

ポール:

「よく聞けよ」

 

「.........」

 

ノーマン:

バンヤンの針だ」

 

「一つ持っていこうか?」

 

ポール:「俺がそっちへ行くよ」

 

ノーマンのところにドライフライを取りに行くのですが、足がよろけるんですね。

 

それはポールの心と身躯の末期状態を告げ知らせるようでした。

 

まるで針が口に食いついて観念して動きが弱り、ノーマンの袂に身を委ねた鱒のようでした。

 

ノーマンはタバコに火を付け一服した後、ポールに渡します。

 

ポールは受け取りまた一服し、ノーマンに返します。

 

ノーマン:「ジェシーに求婚する」

 

ポール:

「本当に?」

 

「今日は良い日だ」

 

一呼吸した後、ノーマンは優しくそして憐れみではなく敬意を持って弟に言います。

 

ノーマン:

「お前も一緒にシカゴへ」

 

「3000キロ離れてて新聞もたくさんある」

 

「活気のある大都会だ」

 

「どうだ、いっしょに行こう」

 

ポールは怒りもせず、兄に敬意を払って言いました。

 

ポール:「俺はモンタナを離れないよ」

 

ノーマンと父親はそれぞれ満足の行く大きさの鱒を釣り上げており、二人で一服しながらポールの姿を遠くから見ていました。

 

ポールは岩影の淀みに狙いを定め、精神を統一して竿を後ろに整然と倒しました。

 

そしてラインを前方に解き放ちます。

 

空気を切りながらラインは弧を描いて真っ直ぐにポイントに向かいました。

 

やがてラインが緊張し、鱒が食らいつきます。

 

今にも消えそうなポールの瀕死の魂に、一瞬火が灯りました。

 

ポールは急流深く流されながら、生死をかけてその鱒と格闘しました。

 

ラインを緩めては鱒の勢いをいなし、強めては自分に手繰り寄せます。

 

どんなに引っ張られても自分の顔までの深さまで流されても決して竿を離しませんでした。

 

ポールの献身的な気性がこの時のために育まれてきたかのように、命を賭けて鱒と闘います。

 

奮闘の末、ポールは父親の鱒を二周りも超えるような大きさの鱒を釣り上げました。

 

父親は自分のことのように歓喜して、写真におさめました。

 

父親:「お前はすばらしい釣り人だ」

 

ポール:「あと3年で魚の考えが読める」

 

ノーマン:「今でも並ぶ者のない釣り人だ」

 

老人ノーマンのナレーション:
「その瞬間僕ははっきりと感じた」

 

「完成されたものの美を」

 

「そこはブラックフットの川辺ではなく、弟は芸術品のようにこの世を超えた空間に立ってた」

 

「だが同時に僕は感じていた」

 

「人の世は芸術ではなく、永遠の命を持たぬことを」

 

 

 

それが最後のポールの姿でした。

 

ノーマンはポールが賭け事のいさかいから、殴り殺され道端に放置されていたということを警察から知らされます。

 

ノーマンから知らせを受けた母と父。

 

父と母は意気阻喪して、足取り重く静かに二階の自室に上がって行きました。

 

老人ノーマンのナレーション:
「その後も父は思い出にすがるためか、僕に”知っていることはそれだけか”と」

 

「僕は答えることがなく、”ポールって奴はただ一つ釣りはすごかった”」

 

「父は”それだけじゃない、あの子は美しかった”と」

 

「だがポールは父の心に生き続けた」

 

「僕は父が亡くなる前の最後の説教を覚えている」

 

父親の説教:

「人は皆、一生に一度は似た経験があります」

 

「愛する者が苦しんでいるのを見て、神に問う」

 

「”愛する者を助けたいのです。何をすれば?”」

 

「本当に助けとなることは難しい」

 

「自分の何を差し出すべきか」

 

「あるいは差し出しても相手が拒否してしまう」

 

「身近にいながら腕の間をすり抜けてしまう」

 

「できるのは愛すること」

 

「人々は理屈を離れ、心から人を愛することができる」

 

息子の死以来、父親の長年の苦悩を告白した教談でした。

 

一人の大人である人格を持った人間に対して何ができるのか?

 

相手に対して誰も何も矯正はできません。

 

ただただ、愛情を持って見守ることしかできません。

 

 

 

 

そして時は経ち、悠久の川に一人老人がフライフィッシングをしていました。

 

子供も独立し、妻、父、母とはもう死別し、独りになったノーマンでした。

 

故郷に戻り、昔の憧憬を懐かしみながら釣りに興じていました。

 

昔と何も変わらず、荘厳で静穏な神のような輝かしい川がノーマンを優しく包み込んでいました。

 

老人ノーマンのナレーション:
「あの頃、理解し合えずでも愛した者たちは、妻を含め世を去った」

 

「今は心で語りかける」

 

「この歳で釣りもおぼつかない」

 

「友達は止めるが、一人で流れに糸を投げ入れる」

 

「谷間にたそがれが忍び寄ると、すべては消え、あるのは私の魂と思い出だけ」

 

「そして川のせせらぎと四拍子のリズム」

 

「魚が川面をよぎる期待」

 

「やがてすべては一つに溶け合い、その中を川が流れる(A river runs through it.)」

 

「洪水期に地球に刻まれた川は、時の初めから岩を洗って流れ、岩は太古から雨に濡れてきた」

 

「岩の下には言葉が...」

 

「その言葉の幾つかは岩のものだ」

 

「私は川のとりこだ」

 

ブラックフットの川というキャンバス。

 

そこに様々な個性ある色が集い、主張し、共演する。

 

だが一体感を持って調和している。

 

それは人の世、現実を超えた悠久の美が陽光がせせらぎに反射した数だけ発生します。

 

この作品の主題は、

 

『故郷とは?美しさとは?』です。

 

この作品の特徴はと言うと、

 

1.モンタナの川の悠久さと包容力
2.そこに棲む鱒と人間との調和と一体、そして旋律
3.ポールの選ばれし芸術家としての刹那的な生き方
4.ノーマンの人間力の結実

 

この4本の柱で構成されています。

 

そこにブラックフットの川が深く関わっています。

 

ブラックフット川がもたらす役割:故郷、神、母、精神性、共存、不変、包容、輝き、静けさ、遊技場、教室、癒やしの場。

 

老いてなおノーマンが川に行くのは、そこに愛するもの達がいるからです。

 

こぼれ落ちてしまった美しい弟が、畏怖と敬意と誇らしさで見ていた父親が、仲間との馬鹿げた企みなど過去の犯されない美しい思い出が真空パックのように時を止めて鮮明に輝いています。

 

この作品はただただ美しい...。

 

理屈では語れない映像美。

 

この作品は何だったのでしょうか?

 

言葉では表しづらいが、また見たい。

 

ここに帰って来たいと思わせてくれる作品です。

 

心にいつでも開けられるそんな作品です。

 

監督がロバート・レッドフォードブラッド・ピットの美形の譜系でしたね。

 

それでは、次の作品で。

 

サヨナラ。


~関連作品~

 

華麗なるギャツビージャック・クレイトン監督、ロバート・レッドフォード

 

愛と哀しみの果てシドニー・ポラック監督、ロバート・レッドフォード

 

『心が2つある大きな川』ヘミングウェイ

 

『草原の輝き』ワーズ・ワース著