- 01.はじめに
- 02.時の支配者
- 03.つかの間の休暇
- 04.飛行機事故
- 05.漂着
- 06.脱出を阻む大波
- 07.小包の中身
- 08.表情豊かな友人
- 09.希望の翼
- 10.喧嘩と孤独
- 11.出航の時
- 12.友との別れ
- 13.空虚感
- 14.ケリーの夫
- 15.再会
- 16.時のいたずらとすれ違い
- 17.漂流の追憶
- 18.生きる寄る辺
- 19.人生の壁と再出発
- 20.選択できる幸せ
- 21.関連作品
01.はじめに
今回の作品は、主人公の男性が飛行機事故で独り無人島生活を強いられるという物語です。
突如、現代人がポツンと一人だけ何もない自然の中に放り出されてしまいます。
恋人と生き別れ、水も食料も用意されていない場所。
植物が生育する条件がありますよね。
「光、空気、温度、水分、養分」
これらが一つでも欠けると最後まで発育しません。
では、人間にとって生きていくのに必要なものは何でしょう。
この作品では文明社会の複雑さを取り除き、生き残ることに特化した無人島生活を通して、そのようなテーマを考えていくことができます。
私たちは人生のあらゆる困難や事件のなかに不安、心配を抱きます。
そんな複雑で絡み合った心の中でも、人にとって本当に必要な要素が分かれば、重要ではない悩みを捨てることができます。
背負っているものを幾分か軽くすることができると思います。
些細なこだわりやとらわれを上手に捨てることができれば、目的はシンプルに「生き抜く」ことになります。
ではどうやって生き抜くのかこの作品を通して一緒に観てみましょう。
~主な登場人物~
~《誰かに伝えたい名セリフ》~
~《あなたに観せたい美しいキャメラシーン》~
02.時の支配者
作品の冒頭、だだっ広い十字路。
その先が全くわからないほど先に広がる4本の道の十字路を一台のトラックが右折します。
一軒のアトリエから宅配人が荷物を受け取ります。
カメラの視線が荷物の目に変わります。
トラックの扉が閉まり、真っ暗になります。
そして次に扉が開いた時、白い息を吐いたロシア人が荷物を持ち出しました。
荷物が人から人へ。場所から場所へ。カメラも右から左へ。左から右へ。動く動く。
一人の少年ニコライが荷物を受け取り、通りを走り、橋の上を走り、どんどんどんどん情景を変えながら移動します。
着いた先はモスクワのFedExの荷物の集積場です。
この集積場で一人の男が、唯一と信じるイデオロギーを演説する革命家のごとく、”宅配思想” を語っています。
この男は ”時” の貴重さを聴衆の前で語っています。
ニコライ少年がチャックに荷物を渡しました。
通訳が自転車を漕ぐマネをして通訳したので、チャックは聞きます。
この主人公の壮年男性のチャックは国際運送会社FedExのシステムエンジニアです。
世界中を飛び回り、運送関係の諸問題の解決に奔走していました。
トラックから荷物を取り出し、積み替えて急いで空港に向かいます。
”時間” が命の職業なんですね。
03.つかの間の休暇
メンフィスに帰り、恋人のケリーと夜を過ごします。
キャメラは家に飾られているセーリングの免許状をそれとなく写して、これから起こる災難を予感させていますね。
そしてクリスマス、豪勢な食事とにぎやかな親類との食事。
漂流生活との対比の準備でもあるシーンですね。
虫歯の痛みを堪えながら、時間を節約し、クリスマスを親族と過ごしたその夜にはまた、問題が生じたマレーシアに飛び立ちます。
マレーシア行きの飛行機に乗り込む直前に、チャックは恋人のケリーに婚約指輪を渡します。
ケリーは祖父の形見の懐中時計に自身の写真をはめ込んでチャックにプレゼントしました。
04.飛行機事故
乗り込む飛行機はFedExの荷物を積んだ社用機です。
ケリーの写った懐中時計を傍に置きながら、チャックは機内でしばし眠っていました。
飛行機の異常な揺れを感じて、突然チャックは起こされます。
パイロットは手振りでチャックの会話を遮りました。
パイロットたちのあせりの表情から状況の深刻さを知るチャック。
突然機体に穴が空き、機内に圧力が高まります。
必死で酸素マスクをする乗員たち。
チャックは救命胴衣とベルトの着用を命じられてそれに従います。
度重なる異常な揺れで、そばに置いてあったケリーの懐中時計が通路の手の届かない所に転げてしまいます。
チャックはどうしようかと悩んだあげく、ベルトを外して懐中時計を取りに行きます。
懐中時計を拾った瞬間に機体は真っ二つに割れ、海に不時着してしまいました。
機内に海水が一気に入り込んできます。
そして一瞬の内に飛行機は海中へと沈んで行きました。
救命ボートを広げてチャックは海上に浮遊し、ボートに乗り込んだ所で気絶してしまいました。
05.漂着
目を覚まし、起きたところは浜辺でした。
さざなみの音だけが響き渡る、無人島に漂着していました。
打ち寄せられた小包を拾いあげ、誰かいないか確認します。
チャックの声だけが虚しくこだまします。
砂浜に「HELP」の文字を大きく描きますが、潮が満ちてきて翌朝には消えてしまいました。
視界には何もない水平線だけが見渡せます。
時折、チャックは物音を聞いて「誰かいるのか」と叫びます。
それは実った重みで落ちるココナッツの実の音でした。
ココナッツの実は固く、岩に投げつけても、石のとがった所に叩きつけても割れてくれません。
偶然に石が割れて、ナイフのように鋭利になった部分を使い、ようやくココナッツを切リ目を入れて、中の少ない果汁をすすりました。
杖をつきながら島中を歩き回りますが、人らしき気配は全くありません。
裸足で歩いていたので、岩で足を切ってしまいます。
尖った石で衣服を切り、ひもで縛って靴を作りました。
チャックは島の一番高いところの岩場に登り、島の周囲を360度見渡します。
そこに見える景色は島に打ち寄せる大きな波が無数にあって、ただ地平線が広がっているだけでした。
チャックの絶望感がにじみ出るような巧みなシーンですね。
チャックは今度は潮の満ちてこない高所に流木を置き「HELP」と文字にしました。
向こうの海に何かが浮かんでいるのをチャックは発見します。
それは遭難の直前まで会話していた同僚アルの遺体でした。
チャックはアルの顔を確認し、その悲惨な姿を見て口を押さえて嘆きます。
墓穴を掘って、パイロットを丁重に弔います。
蒼白な顔、穴に入れるために足の関節をくの字に折りたたむシーンは痛々しさを感じます。
傍の大きな石に墓石として刻みました。
魚を木の枝で突きますが逃げられてしまい、カニを獲りますが身が少なく、生で食べれるものではありません。
06.脱出を阻む大波
チャックがある日の晩に用を足していると、海の沖の彼方に船舶の光が点滅しているのを発見しました。
チャックは懐中電灯を振り回したり、点滅させたりして、必死に居場所を知らせます。
こんなところで死ぬのは嫌だと、チャックはゴムボートに乗って沖に出て船までいこうとします。
大きな波がチャックの船の進行を阻みます。
その度に高波に阻まれて島に追いやられてしまうのでした。
ゴムボートは破れ、チャックの身体は投げ出されて、硬い岩場にこすり、大怪我をします。
作中では登場人物が1人だけですが、ナレーションを採用していないんですね。
観客を映像に集中させて臨場感を感じさせ、チャックのカメラ目線を多様することで、追体験させているかのような感覚をもたらします。
暗い夜や雨の日は洞窟に身を潜めます。
懐中時計のケリーの写真を眺めては、パイロットの遺品の懐中電灯を心そぞろに、灯したり消したりして、寂しさを紛らわせます。
やがて懐中電灯の電池が切れて、チャックは光を奪われるのでした。
遭難の日数を刻んだり、ウィルソンやケリーの似顔絵を岩に掘って、退屈をしのぎます。
07.小包の中身
浜辺にはFedExの荷物が数個打ち上げられて、チャックはそれらを大事に保管していました。
漂着当初、チャックはお客の郵便物に手をつけませんでした。
何日か経って、助けが来ないのが分かり開封します。
アイススケート、パーティードレス、ビデオテープ、バレーボール。
チャックの現在の原始的な生活と現代の消費社会がうまく対比されています。
天使の羽が描かれた小包が一つありましたが、なぜだかチャックはそれを開封しませんでした。
アイススケートの刃はナイフとして使用しました。
ココナッツの実に切れ目を入れ、漁のための銛の先を削り、寒さをしのぐための枝の伐採に巧みに利用します。
ドレスのスケスケのスカートの部分で、魚をすくう大きな網を作りました。
これらの道具を使用して、とりあえず食料の確保はできました。
こういった小道具の使い方は昔からあるドタバタ喜劇の時代から、アメリカ映画はとても上手いんですね。
ユーモアたっぷりです。
バレーボールを何に利用するか想像がつきますか?
08.表情豊かな友人
ある日、チャックは火を起こそうと小枝をこすり合わせますが、全く点きません。
だんだんとチャックは虫歯が痛み始めます。
勢いが余って手が滑り、手のひらに枝が刺さり怪我をします。
チャックのこれまでの溜まっていた怒りが爆発し、あたりの物を蹴散らし、バレーボールを手にとって岩壁に激しく打ち当てました。
転がって静かに止まるバレーボール。
手のひらの形に血痕がついたバレーボールをチャックはじっと見つめます。
そうすると段々とバレーボールが人の顔のように見えてくるんですね。
チャックはボールを手に取り、目と口と鼻を描きます。
チャックはそのボールをウィルソンと名付けました。
Wilson社製のバレーボールだったからです。
監督のロバート・ゼメキスはこういった企業名を巧みに使う遊び心があります。
「フォレスト・ガンプ」「バック・トゥ・ザ・フューチャー」などでも企業名を文字った、たくさんのユーモアのあるシーンが出てきています。
架空の映画なのですが、実在する企業名で観客とのつながりが意識されるんですね。
思いがけず、にんまりしてしまいます。
頑張って火を起こそうとするチャック。
ウィルソンの視線を感じて、ウィルソンの顔をじっと見つめます。
少し煙が出ました。
チャックはすかさずウィルソンの顔の反応を見ます。
小枝の割れ目が酸素を通して煙が出たと推測しました。
チャックは火起こしに成功しました。
小枝からもっと大枝に、火はたいまつのように大きくなりました。
得意げなチャックは横になって、焼きカニを堪能しながらウィルソンに話しかけます。
チャックは岩壁に空路を描きました。
いよいよ虫歯の痛みに限界が来ていました。
チャックはウィルソンに話しかけます。
スポーツ競技用ボールのメーカーのもう一つが ”スポルディング社” です。
壁にはウィルソンの似顔絵がたくさん描かれていました。
チャックはケリーの似顔絵を壁画します。
チャックはスケート靴を鏡にして、もう片方の靴のブレードを口の中に入れて、自力で歯を抜きました。
チャックは痛さのあまり、そのまま気絶してしまいます。
09.希望の翼
それから4年の年月が経ちました。
遠くから泳いでいる魚に銛を突き刺す、モーゼのような姿のチャックが岩場に立っていて、自信たっぷりにポーズを取っています。
チャックは半分野生化しており、少しの物音に敏感になっていました。
小枝をウィルソンの頭部にたくさん突き刺して、髪の毛を作っていました。
チャックはもうボロボロになっていたウィルソンに言いました。
チャックは音の方へ挙動不審に警戒しながら近づきます。
それは簡易トイレの壁が流れ着き、波で岩場に何度も当たる音でした。
立てたそのトイレの壁が風に当たって倒れたのを見て、チャックは思いつきます。
ウィルソンの方をちらっと見て、
チャックはそれをいかだの帆にすれば、あの大波を乗り越えてその先の沖に行けるのではないかと考えました。
ウィルソンを見つめながら話しかけます。
会社員の時の信念を思い出します。
生きる気力がみなぎってきました。
漂流して4年も経って、”時に背を向けている” のに皮肉な言葉です。
チャックは作ったロープを使ってイカダを作りました。
10.喧嘩と孤独
チャックはウィルソンと真剣に口論します。
面白いですね。
チャックは例の島の岩場の高いところで首を吊って死のうとしたことがありました。
”あそこ”とはその場所のことで、死ぬために用意していたロープがそこにはあります。
チャックはいやな思い出の場所でしたが、そのロープを取りに行きました。
死ぬために用意したロープが皮肉にも生きるための希望のロープとなりました。
チャックの一方的な口論の末、ウィルソンを海に投げ捨ててしまいます。
ですがチャックは一瞬のうちに自分が孤独になったことを悟りました。
チャックは必死で海に探しに行きます。
ウィルソンの姿が見つかりません。
明るい月明かりに照らされながら、チャックは泣き出します。
岩場の影でウィルソンは波に揺られていました。
チャックはウィルソンに飛びつき寄り添います。
ウィルソンに許しを請いながら、
チャックはお詫びに自らの血の絵の具でウィルソンの顔を濃くしてやります。
滑稽な中にも涙があって、チャックの心情に感動してしまいます。
人は孤独の中では生きられないんですね。
自然と空想上に人を作り、自分を励まし始めます。
幼い子供はお人形やぬいぐるみに話しかけます。
独り遊びの中で一人で何役もこなし、たくさんの友人と遊びます。
キャラクターグッズで周りを埋め尽くします。
海外の人は特に家庭や仕事場、財布の中に家族の写真をたくさん飾りますね。
人には心の安定が必要です。
将来の不安や現在の寂しさに対して。
11.出航の時
チャックはイカダの帆に最後の小包に描かれていた天使の羽を描きました。
希望の羽です。
立てた流木を身体がわりにして、ウィルソンにポーズを取らせています。
出港の日、チャックは岩に記します。
大波に4年ぶりに挑みます。
チャックは一番大きな波を待っていました。
タイミングよく天使の翼の描かれた帆を開くと、イカダは風を捉えました。
ついには大波を乗り越えました。
チャックの視界から4年間過ごした無人島がどんどんと消えていきます。
チャックは涙を浮かべながら、力強くオールを漕ぎます。
12.友との別れ
ある日、チャックは激しい嵐に遭遇します。
前進するための希望の帆が強風に飛ばされてしまいました。
チャックはウィルソンを抱きかかえ、嵐が過ぎ去るのを我慢強く待ちます。
ある日、海上での生活でチャックが就寝しています。
いかだの船首にくくりつけられていたウィルソンはロープからはずれて、海に流されていきます。
気がついたチャックは、流されるウィルソンの方に向かって泳いで捕まえに行きます。
いかだに繋がれた命綱のロープを伸ばしながらウィルソンを追いかけます。
しかし無常にもロープの長さはウィルソンの所まで届きませんでした。
波にさらわれ遠い彼方に流されていく友人。
チャックにはどうしようもありませんでした。
チャックはイカダの上に仰向けになり、泣き崩れます。
この時、チャックは初めて絶望するんですね。
すべてを諦めたチャックはオールを静かに海に流しました。
チャックは打ちひしがれ、食べることもせずに、生きる気力をなくし、いかだの上で動かないまま横たわります。
そしてイカダの上でただ死だけを待ちました。
くじけずにここまで生きてきた。
ウィルソンはチャックの心の支えだったんですね。
皮肉なことに、そこに大きなタンカーが横切ります。
チャックは夢か現実か分からないまま、手を伸ばしました。
13.空虚感
そして、発見されたチャックは4年ぶりに救助されます。
救助から4週間後、FedEx社ではチャックの帰還のセレモニーが行われようとしていました。
4年の歳月の間に、チャックたちの捜索は打ち切られていて、親族は葬式を済ませていました。
婚約者のケリーのもとにチャックが救助されたという一方が入るシーンがあります。
ケリーは電話で連絡を受けた直後、気を失いました。
彼女の後ろには仲良く食事をする夫と子供の姿がありました。
ケリーは結婚して、再出発をしていたのですね。
機内で物思いにふけるチャックに友人のスタンが話しかけます。
スタンは炭酸ジュースと氷を持ってきました。
チャックとスタンはお互いを見つめ合います。
そしてセレモニーが始まりました。
14.ケリーの夫
チャックは室内でケリーを待っていました。
そこにケリーの夫がやってきました。
ケリーの夫は部屋を出ていきました。
チャックが窓の外を見ると、夫に抱き抱えられながら車に入る困惑したケリーがいました。
チャックの生還パーティーが開かれましたが、チャックの心はそこにありませんでした。
パーティーが終わり、食べ残されたたくさんの料理を見渡します。
茹でた大きなカニを手にとり、もううんざりだという風に放り出します。
ライターに火をつけて、いとも簡単に着いた火を憎らしげに見つめます。
ベッドに心そぞろに横たわり、ケリーの写真を見ながらライトを点けたり消したりして物思いに耽ります。
15.再会
4年の間、チャックはケリーに会いたいという一心で命を繋いできました。
自分の心を整理するため、雨の夜にケリーの家を訪ねます。
するとチャックが玄関をノックする前に、明かりが点いてケリーが現れました。
ケリーもまたチャックに会いたい気持ちと予感、眠れない日々があったのでしょう。
4年ぶりに顔を合わせた二人。
じっと見つめ合いました。
ケリーはチャックをハグしました。
チャックは困惑するもやっと帰ってきたという安堵感でケリーを抱きしめます。
ケリーはまだそわそわして落ち着きのない様子です。
ケリーが開く冷蔵庫の扉がチャックの眼の前に来ました。
そこにはケリーの家族の写真がたくさん貼られています。
チャックはそれを見て、もう戻れないだろうと悟りました。
タオルで雨を拭き取ったチャックは重たい言葉を発します。
緊張した面持ちになったケリーを見て、チャックは優しく少し話をそらしました。
ケリーは胸を抑えながら深呼吸をして少し緊張が取れました。
チャックは4年前にケリーに貰った懐中時計を返しました。
そうしてチャックは悲しくあとずさりしながら、玄関のドアに手をかけました。
二人はガレージに向かいました。
チャックは一人、車に乗ってエンジンをかけました。
二人は車のドア越しにキスをしました。
16.時のいたずらとすれ違い
そしてチャックはケリーとの思い出を断ち切るように車を発進させます。
ケリーもこれまでのチャックとの日々に戻れないことを悟りました。
チャックを見送るケリーは自分の表情を隠すためにガレージの明かりを消します。
チャックの乗る車は家の敷地をゆっくりと出ていこうとしています。
段々とケリーの視界の中の車が小さくなって行きます。
雨の中、ケリーはずぶ濡れになりながら、車を追いかけました。
かすかに聞こえたケリーの呼び止める声にチャックは反応して、車をバックさせました。
二人は雨の中、抱きしめ合いました。
チャックはケリーの手を引いて車に座らせました。
ケリーは家族を置いては行けないことを感じていました。
チャックはそんなケリーの優しさを知っていました。
チャックは数秒ケリーを見つめたあと、決心が揺らがないように前を向き直します。
そしてチャックはケリーと別れました。
17.漂流の追憶
友人のスタンと酒を交わすチャック。
18.生きる寄る辺
チャックが最後まで開封しなかった ”天使の翼の小包”。
なぜ開けなかったのか?
生き残るための有効な道具があるかもしれませんでした。
ですがこの小包を開けてしまうと、チャックがお客に荷物を届けるという役割を失ってしまうんですね。
遭難したチャックにとっては生きるただ一つの理由です。
生きて戻るために大切に取っていました。
彼が今、生きている目的であり、存在するたったひとつの理由がこの小包を送り届けるということです。
友人ウィルソンの存在とこの最後の小包を届ける役目があったからこそ、チャックは自死を選ばなかったのだと思います。
チャックは天使の翼の小包を届けるために、宛先の住所にやって来ました。
住人は不在でチャックは書き置きを記します。
この作品の冒頭にこの住所の住人のアトリエが映し出されていました。
パートナーと共同で創作していたような看板が入り口にありました。
4年後、チャックがそこに訪れた時、
だけとなっていました。
彼女にもまた別れがあったのですね。
配達の帰り道、チャックは十字路に車を停めて地図を広げ、つぎの行き先を探します。
一台の車が止まり、一人の女性が話しかけてくれました。
何と女性の車の後ろにはあの天使の羽のシンボルが描かれていました。
19.人生の壁と再出発
映画の冒頭で4年前、配達人が来た時に溶接面と取った時の、彼女のはち切れるほどの満面の笑顔。
そして4年後にチャックと出会った時の全く変わらない笑顔。
この笑顔と笑顔の間に彼女はどれだけの悲しみを乗り越えて来たのでしょうか。
時の流れの残酷さとともに、人が苦難を乗り越える強さをも感じることができます。
本作品のテーマのような気もします。
作品の冒頭、モスクワでチャック自身が言ったセリフです。
人との離別、難治性の病気や障害、金品の遺失...
苦難が訪れた時、人はまずその事を受け入れることができません。
「拒絶」です。
考えないように心から閉め出す。あるいは他人や自分に怒り狂い、涙が乾き干されるほど泣き叫びます。
現実を跳ね除けようとするのです。
次に「絶望」です。
前に進めない、心が動かない、何もする気力がない。
できることは眠ることか、ぼーっとすること、忘れるために何かに依存することだけ。
自律神経が「生きる」ことを停止させています。
次に「受け入れ」です。
「もうあの人はいないんだ」
「ここにはそれはないんだ」
「決してこれは直せないんだ」
事実を諦めて受け入れる。
悲しい感情をも自分の中に取り入れる。
この苦難を味わい尽くす。
無くしてしまった人や物に接触していた「ぬくもりの手」や「大きな頼り」や「利己的な執着」や「愛着」や「思い描いた夢」や「輝かしい思い出」などを噛み砕き、完全に自分のこころから切り離す。
最後に「忘却」です。
拒絶、絶望、受け入れのフィルターを通してきれいに浄化したものしか心の中にしまうことはできません。
心の「とらわれ」を取り払って記憶を最小にしなければ、心の中にしまいこんで忘れることができないのだと思います。
20.選択できる幸せ
最終シーンの十字路の道。
とても映画的な風景でした。
どの道に行っても未来が違います。
無人島では得られなかった「希望」と「自由」
チャックの傍らには新しく買ったウィルソンがいました。
チャックはベティーナの行く道を見つめて微笑んで、映画は終わりました。
この後、チャックはベティーナを訪ねるのでしょうか。
それもまた、生き延びてこそ選択できる自由ですね。
今の暮らしのなかで不安に思っていること、たくさんお有りだと思います。
そうした不安を、心の整理をして、捨てることができるものとできないものに細かく分けましょう。
そうすれば、今まで背負ってきた荷物を降ろし、大事なことが見えてきて、優先順位がはっきりし、前に進むエネルギーを費やすことができると思います。
ここまでお読み下さり、ありがとうございました。
また次回の作品でお会いしましょう。