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『ギルバート・グレイプ』~最上の芸術作品!人生、数滴の涙とささやかな笑いが同居中~

ギルバート・グレイプ

 

 

 

 

 

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0.はじめに

 

~《あなたに観せたい美しいキャメラシーン》~

警察署に勾留された重度の知的障害をもつ息子を過食症で巨大な体になってしまった母ボニー。集まってきた町の見物人から彼女を守るように家族全員が支えながら歩くシーン
1:06:54~1:08:14

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~《誰かに伝えたい名セリフ》~

ベッキー:「じゃあ、お父さんのせい?」ギルバート:「いいや」
1:27:25~1:31:15


背景:グレイプ一家の不幸に対して、ギルバートは自ら犠牲になりにいったのに気づき、自分に正面から向き合って、父親、母親そして自分の弱さを認めることが出来た時に言ったセリフ

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1.作品の際立った特徴

 

この作品の原題は『What's Eating Gilbert Grape』です。

 

”ギルバート・グレイブをイライラさせている物事”という意味になるそうです。

 

この作品や監督のラッセ・ハルストレムの他の作品でも、主人公はとてもつらい環境で過ごしています。

 

ですが、暗いトーンだけでは決して描画していません。

 

微笑ましくコミカルなシーンを入れて描出しています。

 

主人公や登場人物に思いやりの気持ちを持って共感しているからだと思います。

 

ある場面ではとても悲壮な場面を洒落た小話にしているところもあります。

 

観ている者を悲しみの深淵につき落とすことなく、涙と笑いで包み込んでくれます。

 

関西のローカル番組の『探偵ナイトスクープ』のような感じです。

 

この作品の特筆すべきは、映画ならではの視覚芸術です。

 

レオナルド・ディカプリオ扮する、主人公の弟アーニーは重い知的障害を持っています。

 

障害の重さや特徴は演じる役者の表情、行動、言葉を通してすばらしい演技でないと皆さんに伝わらないと思います。

 

そのほかにも視覚でないと伝わらないシーンはたくさんありますが、その都度お伝えさせていただこうと思います。

 

 

2.希望に満ちた冒頭シーン



 

 

この作品はある一家の物語です。

 

映画の冒頭、アイオワ州の田舎町エンドーラ、長い長い一本道で二人の兄弟が何かを待っています。

 

年の割に子供っぽくはしゃぐ弟とどこか無気力な兄。

 

待っているのはこの田舎町を通り過ぎるエアストリームと呼ばれるキャンピングトレーラーの隊列でした。

 

坂道の向こうから無数の光が差し、銀色のボディにキラキラと光を浴びながらそのトレーラーはやってきました。

 

明るく希望に満ちた冒頭シーンですね。

 

 

3.鬱屈した一家

 

重い知的障害を持つ18歳間近のアーニーは医者から10歳までは命が持たないと言われていました。

 

バッタを捕まえて、郵便受けの扉で挟み、死んでしまったと言って泣きだします。

 

姉のエミーは小学校で調理師として働いていましたが、火事で焼けてしまって、家にいます。

 

歯の矯正器具を外したばかりのまだ大人になりきれていない反抗期の妹エレン。

 

長男のラリーは大学を卒業後、家族を捨てて家を出ました。

 

町一番の美人だった母親のボニーは夫の自殺後に過食症を患い、巨体で動けなくなり、人の目から逃れるため何年も外出していません。

 

主人公で次男のギルバートのナレーションで淡々とコミカルに家族紹介をしています。

 

母ボニー:「わたしの太陽はどこ?」

 

 

母親はアーニーを溺愛してそう呼んでいます。

 

姉のエミーと次男のギルバートはアーニーのかくれんぼに優しくつきあいます。

 

ギルバート:「エミー、アーニーは?」

 

姉エミー:「あんたと一緒では?」

 

ギルバート:「いいや、どこかな?」

 

 

アーニーは木の上に隠れて夢中ではしゃぎます。

 

姉エミー:「どこかしら?」

 

ギルバート:「エレン、アーニーは?」

 

妹エレン:「木の上よ」

 

 

エレンはいじわるに本当のことを教えました。

 

ギルバートはエレンを睨みつけます。

 

姉エミー:「ちゃんと探したんでしょ?」

 

ギルバート:「探したよ」

 

 

アーニーはギルバートの正面に降りてきてびっくりさせます。

 

ギルバート:「よせ、驚かすな」

 

アーニー:「木に登ってたんだよ。分からなかった?」

 

 

そういって、アーニーをおんぶして車まで行きます。

 

アーニーの飛びつく勢い、しがみつく仕草。どれだけ兄ギルバートが大好きなのが分かります。

 

仲睦まじい兄弟のシーンです。

 

 

 

4.ギルバートってどんな青年?

 

ギルバートは町の小さな雑貨屋で働き、一家の生計を立てています。

 

眼の前に大きなスーパーがオープンして、ギルバートが働く雑貨屋はあまり繁盛していません。

 

店のオーナーも諦めて弱気になっています。

 

店のオーナー:「スーパーでセールでも?」

 

ギルバートは慈愛に満ちた表情で言います。

 

ギルバート:「あんな店近づく気もありません」

 

店のオーナー:

「ロブスターだな?」

 

「水槽で生きてるロブスター、そうだろ?」

 

ギルバート:

「心配ありませんよ。ひとときだけの事です」

 

「客は戻ってきます」

 

店のオーナー:「本当に?」

 

ギルバート:「絶対ですよ。絶対に」

 

店のオーナー:「その言い方、おやじさんにそっくりだ」

 

 

このようなやりとりの中でギルバートはとても優しい青年だとわかるんですね。

 

この作品は不幸な家族の描写と同時に滑稽な場面がたくさんあります。

 

ギルバートの浮気相手である中年女性のベティは度々ギルバートを配達に呼び寄せて、逢瀬を重ねます。

 

ギルバートはあまり気乗りではないんですね。

 

そこにベティの夫が帰ってきます。

 

なぜか彼女のシーンの時はアイスクリームがたくさん出てきます。

 

セックスしている時もアイスをくわえます。

 

フロイトの『口唇期欲求』を暗示しているのでしょうか。

 

面白い表現ですね。

 

ベティの夫が陽気に帰ってきます。

 

ベティたちがセックスしていると同時に夫は庭で子供といっしょにトランポリンでぴょんぴょん跳ねているんですね。

 

すごいジョークが効いていますね。

 

ギルバートは口にアイスクリームが付いているのに気づかずに、にこやかに大分年上のベティの夫に挨拶をします。

 

ベティの夫は財布からチップをギルバートに渡します。

 

浮気の事に気づいているのかどうか分からない、この優しさが怖いんですね。

 

ベティの夫:「オフィスへ来い。話したい事がある」

 

ベティの夫は保険屋をしているんですが、浮気に気づいているのかどうかを曖昧にしたまま、オフィスに来いとギルバートに告げます。

 

そんなやり取りの最中、目を離した隙にアーニーがいなくなりました。

 

50mはある高い給水塔に登っていました。

 

そこには大勢の見物人と警察が集まっていました。

 

ギルバート:「アーニー、降りてこい!」

 

アーニー:

「登っておいで。前よりも高いところまで行くぞ」

 

「もっと高く!」

 

ギルバート:「アーニー!」

 

アーニー:

「見て!落ちないよ!」

 

「靴が落ちた!」

 

「ギルバート、靴が落ちた」

 

そこでギルバートはアーニーをあやすように好きな歌を歌います。

 

ギルバート:

「♫ アーニーを知ってるかい?」

 

「♫ もうじき、18歳の誕生日」

 

「♫ アーニーを知ってるかい?」

 

「アーニー、降りてこい!」

 

「♫ ボンベが爆発 ドカン、ドカン!」

 

アーニーは思わず釣られて歌いだします。

 

アーニー:「♫ ボンベが爆発 ドカン、ドカン!」

 

ギルバート:「♫ ボンベが爆発 ドカン、ドカン!」

 

アーニー:「♫ ボンベが爆発 ドカン、ドカン!」

 

アーニーは興奮が収まり、やっと塔から降りてきました。

 

ギルバート:

「いいぞ!」

 

「いい子だ、早く降りてこい」

 

その場に居た人みんな、温かい拍手をしました。

 

何てのどかな雰囲気の田舎町でしょうか。

 

微笑ましいシーンです。

 

キャンピングカーで旅をしている、若い年頃の娘ベッキーもその様子を見ていました。

 

ベッキーはギルバートの優しくてどこか無気力な大人しい所に惹かれます。

 

ギルバート:

「本当にすみません」

 

「連れて帰ります。もう二度とさせません」

 

警官:「いつもそう言って何度登ったと思う」

 

ギルバート:「今度こそ最後です。そうだろ?」

 

アーニー:「最後だよ」

 

ギルバート:「さあ帰ろう」

 

アーニー:「また登りたい!」

 



 

 

 

5.巨大な母

 

家に戻り家族で食事の支度をします。

 

大きな食卓を母ボニーの座っているソファーまで運びます。

 

友人のタッカーが冷蔵庫を直しにやってきました。

 

そこに小さな男の子が母ボニーの巨大な姿を見に来ました。

 

ギルバートは男の子を抱え上げ、窓越しに母ボニーを見せてやります。

 

男の子:「見ちゃった!見ちゃった!」

 

タッカー:「何をする」

 

ギルバート:「悪いか?」

 

タッカー:

「いけないよ」

 

「お袋だろ?」

 

「お袋だ。あんな事よくないよ」

 

ギルバートはどこか気持ちが歪んでいるんですね。

 

こうしたエピソードでギルバートの心の軋みを表現しています。

 

何気ないシーンやセリフでギルバートの母への抑圧されている憎しみが現れています。

 

就寝の時間、アーニーは ”おやすみ” を間違えて ”さよなら” と言いました。

 

ギルバート:「 ”さよなら” はどこかへ行く時だ。今は違う」

 

アーニー:

「そんな事、分かってるよ。ギルバート」

 

「僕と兄ちゃんはどこへも行かない」

 

「さよなら」

 

何気ないセリフの中に、ギルバートがこの家族を捨ててどこかへ行ってしまうかもしれないという気持ちを演出として匂わせているんですね。

 

友人とのセリフで、

 

タッカー:「お袋さんは?」

 

ギルバート:「太ってる」

 

タッカー:

「そんな言い方はよせよ、ギルバート」

 

「収穫祭でもう少し太っている男を見た」

 

ギルバート:「もう少し?」

 

タッカー:「上には上がいる」

 

ギルバート:「お袋はクジラさ」

 

タッカー:「散歩をさせろ」

 

ギルバート:「ジョギングも?」

 

こういった話を親身になって聞いてくれる友人はとても貴重な存在です。

 

ギルバートは悪口であっても本音で話せるんですね。

 

息抜きになっています。大切な友人です。

 

 

6.自由奔放なベッキーとの出会い

 

カフェレストランで雑談中にベッキーが通り過ぎます。

 

彼女は細い体でキリッとした目つきです。

 

そんな彼女にマッチした細いフレームで美しいデザインの自転車を、彼女は押して歩いていました。

 

一瞬、ギルバートとベッキーの目が合います。

 

アーニーは瓶の中でバッタを飼っていて、雑貨屋のオーナーは品物のレタスをちぎり、えさとして与えてくれました。

 

アーニー:「バッタだよ」

 

雑貨屋のオーナー:「レタスをやろう」

 

アーニー:「僕の友達だ」

 

雑貨屋のオーナー:「見ろ、食ってる」

 

ギルバート:「お礼は?」

 

アーニー:「ありがとう、ありがとう、ありがとう」

 

アーニーには町の人がとても優しく接してくれます。

 

店にベッキーが買い物に来て、トレーラーまで配達することになりました。

 

アーニー:「君の?僕が乗せるよ」

 

アーニーは楽しそうに自転車を車の荷台に乗せます。

 

三人は並んで車に乗っています。

 

アーニー:「いつでも配達を。いつでも」

 

アーニーはベッキーに顔を近寄せて言いました。

 

ギルバート:

「アーニー、よせ」

 

「すみません、場所は?」

 

ベッキー「このまま、真っ直ぐ」

 

アーニー:

「ママが18歳の誕生パーティーをしてくれる」

 

「そうだろ?」

 

「パーティーはいつ?」

 

ギルバート:「あと6日だ」

 

アーニー:

「あと6日で僕は18歳だよ」

 

「君は招待されてない」

 

ギルバート:「アーニー、失礼だよ」

 

ベッキー

「いいのよ」

 

「彼は正直なのよ」

 

アーニーはギルバートをからかって笑いました。

 

キャンピングカーが停泊している所に着きました。

 

アーニー:

「僕が運ぶよ」

 

「大丈夫、僕が運ぶよ」

 

アーニーは買い物袋を落としてしまいました。

 

アーニーはとても落ち込み、自分の頭を何度も叩きました。

 

ディカプリオのオーバーアクションのない自然な素晴らしい演技です。

 

ベッキー「いいのよ」

 

ギルバート:「すみません」

 

ベッキーはパニックになっているアーニーを優しいまなざしで見つめました。

 

ベッキー「いいのよ」

 

ギルバート:「でも...」

 

ベッキー

「やめて」

 

「悪いと思う?」

 

「私も悪いと思わないわ。謝らないで」

 

アーニー:「僕は悪くない」

 

ベッキーの優しさが分かるシーンです。

 

 

7.家族の軋み

 

家では家族でアーニーの誕生パーティーの話し合いをしていました。

 

母ボニー:

「ウィンナ・ソーセージがいいわ」

 

「グレープ・ジェリーでソースを」

 

アーニー:「ママ、ホットドッグも」

 

姉エミー:

「ハワイ風のオードブルは?」

 

「缶詰のパイナップルをベーコンで巻いて楊枝を刺すの」

 

母ボニー:「ベーコンは?」

 

姉エミー:「オーブンで」

 

母ボニー:

「ベーコンはカリッと焼かなきゃ」

 

「ベタッとしたのはダメ」

 

「あれはまずいわ」

 

アーニー:「ホットドック!」

 

母ボニー:「もちろん、ホットドッグもよ。約束するわ」

 

妹エレンは口に食べ物を入れて喋ります。

 

妹エレン:「私の知ってるパーティーでは...」

 

ギルバート:

「エレン、エレン」

 

「食べながら話すな。吐き気がする」

 

妹エレン:「何ですって」

 

ギルバート:「吐き気がする」

 

妹エレン:

「わかったわ、パパ」

 

「謝るわ、パパ」

 

アーニーは面白がってリピートします。

 

アーニー:「いいわ、パパ。謝るわ、パパ」

 

ギルバートはいらいらして、家族が傷つくことを言ってしまいます。

 

ギルバート:「パパは死んだ」

 

姉エミー:「ギルバート、やめて」

 

アーニーはまた復唱してしまいます。

 

アーニー:「パパは死んだ!」

 

姉エミー:「アーニー、やめなさい」

 

アーニー:「パパは死んだ!パパは死んだ!パパは死んだ!」

 

母ボニー:「やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!」

 

母ボニーはヒステリックになり、床を何度も踏み始めました。

 

こぼれたミルクを拭こうとギルバートは食卓の下にしゃがむと、母ボニーの地団駄で床が軋んでいるのを見つけました。

 

ギルバート:「エミー、見ろ」

 

悲惨さの中にどこか可笑しさを含ませているんですね。

 

ギルバートは友人タッカーを呼び、床を見てもらいました。

 

母ボニーに気づかれないように床を調査します。

 

母ボニーはテレビを見ながら、うたたねをします。

 

ギルバートはテレビを消そうとリモコンをオフにしますが、ボニーが起きてしまいました。

 

母ボニー:「何してるの?かして」

 

姉エミー:「ママ、ベッドで寝たら?」

 

母ボニー:「どうして?」

 

姉エミー:「気分が変わるわよ」

 

母ボニー:「私はここでいいの」

 

姉エミー:「本当に?」

 

母ボニー:「いい子たち..」

 

ギルバートはボニーのタバコに火をつけ、エミーは毛布をかけてあげます。

 

子供たちがどれだけ母に気をつかいながら生活をしているのか、また家族の重荷になっているかをユーモラスに表したシーンです。

 

 

8.封印された地下室

 

翌日、タッカーが床を直しに来ました。

 

タッカーは地下室でいっしょに手伝ってくれといいます。

 

ギルバートは嫌がって、アーニーに行かせようとします。

 

タッカー:「手を貸してくれ」

 

ギルバート:「アーニー、手伝いを」

 

「地下室だよ」

 

「アーニー、地下室だよ」

 

アーニー:

「あそこは僕、イヤだ」

 

「イヤだ、絶対に行かないよ」

 

タッカー:「どうした?」

 

アーニー:

「パパがいる!」

 

「パパがいるからイヤだ」

 

アーニーはゾンビのマネをして怖がります。

 

首吊りの仕草をしました。

 

ギルバート:

「アーニー、黙れ!」

 

「アーニー、黙れ!」

 

作業が終わって、

 

タッカー:

「あの角材を6本使えばなんとかなるだろう」

 

「支えられるよ」

 

「つい忘れた」

 

「あそこでお前のおやじが...」

 

ギルバート:「まあな」

 

タッカー:「悪かった」

 

ギルバート:「いいんだよ、気にするな」

 

もしかしたらギルバートは父が死んでいる姿を直接見てしまったのかもしれません。

 

家族の家は何十年も前に父親が自ら建てました。

 

なのでとても古く壊れやすいものでした。

 

グレイプ一家の生活のシーンでは死んだ父親の暗い影がずっしりと居座っています。

 

この作品がとても上手いなと思うのは、そのギルバートの抑圧された気持ちの象徴が古くなった父親が建てた家であり、床を支える木材なんですね。

 

それが今、限界をむかえて軋み始めているんですね。

 

なにかが崩れ去ろうとしています。

 

 

9.ギルバートの憂鬱

 

ある日またアーニーが給水塔に登ろうとしていました。

 

今度は妹のエレンが乱暴に止めます。

 

アーニーはケガをしてしまいました。

 

ギルバートはアーニーの傷の手当をします。

 

ギルバート:「忘れるなよ」

 

「誰かが殴ったり指一本お前に触れたら、お前はどうする?」

 

「俺に言うんだ。俺がやっつける」

 

「なぜか分かるか?」

 

アーニー:「ギルバートは兄ちゃんだから」

 

ギルバート:「その通り、誰にもお前はいじめさせない」

 

そんな弟思いのギルバートなのですが、息抜きもできずストレスが溜まっていました。

 

車に乗り込み一人ドライブに出かけます。

 

ベッキーとそのおばあさんの所に気晴らしに立ち寄ります。

 

ギルバートはベッキーが長年ひとつの場所に住んでいたおばあさんを連れ出し、自由気ままな放浪生活に連れ出したことを知りました。

 

ベッキー「私は外見の美しさなんかどうでもいいの」

 

「長続きしないもの」

 

「いずれ顔にしわができて顔には白髪が、オッパイも垂れる、そうでしょ?」

 

「何をするかが大事なのよ」

 

ギルバート:「そうだな」

 

ベッキー「あなたは何をしたい?」

 

ギルバート:「ここでは何もする事がなくて...」

 

ベッキー「ここでも何か一つぐらいあるはずよ」

 

ギルバートは自分のしたいことを我慢しすぎて無意識に中に抑圧しているんですね。

 

中々やりたいことを思いつくことができなくなっています。

 

どこか燃え尽き症候群のような無表情さがありました。

 

二人はアイスクリーム屋に行ってデートしました。

 

ベッキー「取り替えっこしない?」

 

そこを子供連れのベティが目撃します。

 

またベティとアイスクリームの共演ですね。

 

ベティは動揺していました。

 

夕焼け空を見ながらギルバートとベッキーはゆったりとした時間を語らいます。

 

ベッキーの大らかで自由な性格でないとギルバートはこういう時間を過ごすことはなかったと思います。

 

ベッキー「色が変わっていく」

 

「夕焼けってステキね」

 

「見ているうちにゆっくり変わっていく」

 

「空って大好き」

 

「広くて果てしない」

 

ギルバート:「そうだな、とても大きい」

 

ギルバートにはゆっくり空を見るゆとりも発想も自由も今までなかったんですね。

 

ベッキー

「”大きい”なんて言葉、空には小さすぎるわ」

 

「空を表すのにはもっと大きな言葉を」

 

そんなやすらぎのひとときでもギルバートは家の用事を思い出して、ベッキーを残し家に戻ります。

 

家に戻ったギルバートにアーニーは嬉しげに飛びつき、おんぶしてもらいます。

 

ギルバートはアーニーをお風呂に入れ、体を洗ってやります。

 

ギルバート:

「今日は遊んでる暇がない」

 

「首を伸ばして」

 

「それでいい、お前はもう大きい」

 

「もう大人だ」

 

「自分で体ぐらい洗えるはずだよ」

 

「どうだい?大人だろ?」

 

「洗って。タオルはあそこにある」

 

「ローブはあそこにある」

 

アーニー:「僕は自分で洗える」

 

ギルバート:「偉いぞ、俺は用事がある」

 

ギルバートはアーニーを浴槽に残して、ベッキーの所へ戻りました。

 

 

 

10.自己主張と自己蔑視

 

ベッキー

「見逃したわ」

 

「日没よ」

 

「素敵だったわ」

 

「あなたの家を見せて」

 

ギルバート:「やめとけよ」

 

ギルバートは家族を恥じているんですね。

 

ベッキーはギルバートに心を開いてもらうために身の上を話しました。

 

ベッキー

「見るだけよ、いいでしょ?」

 

「両親は離婚したの」

 

「2人の間を往復して、引っ越しばかり」

 

「でも私の人生だからいいの」

 

ベッキーは自分と親とをしっかり切り離して考えて生きていました。

 

親からの自由と自我がしっかりしているんですね。

 

ギルバート:

「僕らもよそへ移りたいけど、お袋が家を離れたがらない」

 

「離れたがらないのではなく、家にくっついてる」

 

ベッキー「どういう事?」

 

ギルバート:

「あれだよ、僕の家だ」

 

「驚いたな。遠くで見るとあんなに小さい」

 

「中の人間は大きいのに」

 

「テレビで浜に打ち上げられたクジラを?」

 

「それがお袋だ」

 

「お父さんは?」

 

「それはまたいつか話すよ」

 

「とても楽しかったよ」

 

ベッキー

「そうね」

 

「おやすみ」

 

人と人とが距離を縮めたり親密になるとはこういう事ですね。

 

お互いのことを知るとはお互いの弱いところを知ってもらう事です。

 

虚勢を張って自分をよく見せることでは決してありません。

 

本心を打ち明けることを通じて、話を聞いてもらうことで癒やされ、聞いた側は慈しみを与えるのだと思います。

 

表面的で本心を言わない、自己主張しない、傷つくのを避けている関係は親しい関係ではないんですね。

 

母を悪く言ったギルバートをベッキーは何も咎めませんでした。

 

ギルバートには深い心の傷があることを知ったからだと思います。

 

只々、ギルバートを癒やすように彼の思いを聞いてあげていました。

 

 

11.仲たがい

 

ギルバートは帰宅して床につき、朝目覚めます。

 

顔を洗おうと洗面所に行くと、なんとアーニーは昨日の夕方からずっと風呂に入ったまま、浴槽の中で震えていました。

 

ギルバートはごめんよごめんよと必死で謝ります。

 

こういうシーンは本当に映像が一番良く感動が伝わります。

 

寒さに震えているアーニー、必死で体を温めるためアーニーを抱きしめるギルバート。

 

母ボニー:

「最近のお前は変よ」

 

「しっかりして、ギルバート」

 

ギルバート:「謝るよ」

 

母ボニー:「謝るだけじゃ足りないわ、頼りない子ね」

 

ボニーはギルバートに依存しきっています。

 

ギルバートの心には全く無関心です。

 

ある日、ギルバートはベティの所に配達に行きます。

 

ちょうどアイスクリームを作っていました。

 

ベティはギルバートがベッキーとデートしていた事の腹いせにベティの夫に電話をかけさせます。

 

そしてわざといやらしい事をしました。

 

ギルバートは腹をたてて出ていこうとします。

 

ギルバート:

「殺されるよ」

 

「殺される」

 

ベティ:「ちょっとふざけただけよ」

 

ギルバート:「ひどいな、じゃあこれで」

 

ベティ:

「待って」

 

「あの娘の所?」

 

ギルバート:「ご主人に呼ばれたんだよ」

 

ベティ:

「行かせないわよ」

 

「出ていったら許さないわよ」

 

オーブンのアラームが鳴り、ギルバートはその隙を突いて出ていきました。

 

 

12.情事の行方

 

 

ギルバートは浮気のことを責められることを恐れながら、ベティの夫のオフィスを訪ねました。

 

ベティの夫:

「落ち着かないか?」

 

「それは、よくわかるよ」

 

「俺が君ならパニックを起こす」

 

「君のことを調べた」

 

医療保険にも入ってない」

 

「災害保険も生命保険も」

 

「ギルバート、万一の用意は?」

 

「思いもかけぬ災難に見舞われたら?」

 

ギルバートはかかってきた電話の音にビクつきました。

 

ベティの夫:

「残された君の家族はどうなる?」

 

「それを考えた事が?」

 

「自分より家族の事を」

 

「路頭に迷わせたいかね」

 

浮気の事を責められると思っていましたが、保険の勧誘でした。

 

その電話はベティからの電話でした。

 

ギルバートはベティが腹いせに浮気をバラしたのではないかと恐れました。

 

ギルバートとベティの夫は家に向かいます。

 

ギルバートに出ていかれたショックで、オーブンの火を止めず、家中煙が充満していました。

 

ヒステリーを起こしたベティの夫は、中々懐かない子供に焦げたクッキーを無理やり食べさせます。

 

この可笑しげでジョークの効いた修羅場を、ギルバートは一刻も早く逃げ出そうと車のエンジンをかけますが、中々かかりません。

 

そこにベティーが近づいて来ました。

 

ティー

「どんな男でも選べたのよ」

 

「だけど私はあんたを選んだ」

 

ギルバート:「なぜ、俺を?」

 

ベティ:「それは、あなたならこの町から出ていかないから」

 

ギルバートにとってこの一言は苦しい言葉でした。

 

「あなたは一生あの家族の犠牲になってこの町で生きていくんだ」と言われたようなものです。

 

ベティの夫はすごい癇癪持ちですぐにキレるんですね。

 

ティーの浮気の理由や子供たちが懐かない理由がわかって面白いですね。

 

そして、その晩に興奮しすぎたベティの夫は心臓発作で倒れ、倒れた所が運悪く子供用のビニールプールだったため、その浅さでも溺死してしまいました。

 

子供用ビニールプールの周りは刑事事件現場の立ち入り禁止テープで四角に区切られていました。

 

その内容をギルバートとタッカーともう一人の葬儀屋の友人ボビーがカフェで話します。

 

ボビーはスプーンをベティの夫に見立てて、ヒザと首を折り曲げて、灰皿に顔を浸け溺死の状況を説明します。

 

スティーブン・キングのホラーコメディ小説のようですね。

 

タッカーはベティが殺したのではないかと邪推します。

 

ギルバート:「分からない。可能だとは思うけど...」

 

ギルバートにはベティに対する愛情は少しもないのですね。

 

 

13.ベッキーのカウンセリング

 

ギルバートとアーニー、そしてベッキーは川のほとりでくつろいでいました。

 

世間の常識に捕らわれないベッキーは川に入り、安らぎを感じているようでした。

 

アーニーはそばで大好きな木登りをして、小躍りしています。

 

アーニー:

「僕はいないよ。どこにもいない」

 

「”アーニーはどこ?”って言って」

 

ベッキー「川に入りなさいよ」

 

アーニー:「”アーニーはどこ?”って言ってよ」

 

ベッキー「アーニーはどこ?」

 

アーニー:

「僕はいないよ!」

 

「もう一度言って」

 

「そう言って僕を探して」

 

ベッキー「一緒に泳ぎましょうよ」

 

ギルバート:「無理だよ。水を怖がってて絶対に入らない」

 

アーニー:「水には入らない」

 

ベッキー「あなたはどう?」

 

ギルバート:「イヤだ」

 

ベッキー

「どうして?」

 

「あなたも水が怖いの?」

 

「入らない?」

 

アーニー:「怖いのさ」

 

ギルバート:「こうすればいいのか?」

 

ギルバートは静やかに足だけ川に浸しました。

 

ギルバート:「派手に?」

 

ベッキー「もっと」

 

ギルバート:「こうかい?」

 

ギルバートは怒涛のごとく大股で川を闊歩して、ベッキーのそばまで水しぶきを上げながら近づいてきました。

 

ギルバート:「これでどう?満足かい?」

 

何かにチャレンジするには勇気が必要です。

 

そして行動することによって、その行為に意味を感じはじめるのです。

 

川に飛び込む行為を ”そんなことはくだらない” と人は考えがちです。

 

最初から意味のないことだと考えてしまうのです。

 

何かをやる前に無意味だ、ナンセンスだと考えてしまうとそれはニヒリズムに結び付けられてしまいます。

 

とうとう最後には ”生きることは意味がない” という考えに行き着いてしまいます。

 

しかし楽しかった、体が軽くなった、感動した、普段とは違った感情を得られたなど、行動を通してのみ、心の中に変化が現れます。

 

最初に意味を考え付くのではなくて、人はその行為の中から段々と ”意味を感じて” 、生きるためのエネルギーを体の中に取り込んでいくのです。

 

行動の後に自分だけの意味付けが行われるのだと思います。

 

ベッキー

「あなたの望みを思い浮かべて」

 

「あなたの望みは?」

 

「早く」

 

ギルバート:

「新しいものを。新しい家を僕の家族に」

 

「それから、お袋にエアロビクスを」

 

「妹が大人になること」

 

「アーニーに新しい脳を」

 

「それから...」

 

ベッキー

「自分には?」

 

「自分の望みは?」

 

ギルバート:

「いい人間になりたい」

 

「こういう事、苦手だな」

 

ギルバートは自分の願望や希望は持ってはいけないと思って生きてきたのだと思います。

 

どこかで自分の欲求を無意識の深くに抑圧してきたのだと思います。

 

 

 

14.母ボニー、外に出る

 

ギルバートはベッキーとの心地よい時間を過ごしリラックスしていて、アーニーのことを忘れてしまっていました。

 

アーニーはまた給水塔の鉄塔に登ってしまいます。

 

ギルバートはその場に間に合わず、高所作業車が出てきてアーニーを引きずり降ろしました。

 

ギルバートは警官に懇願するも受け入れられず、アーニーは留置所に入れられてしまいました。

 

母のボニーはアーニーを溺愛していました。

 

母ボニー:

上着を」

 

「早く!」

 

ボニーの巨体は町でも笑い者になっており、彼女はその事をとても気にして、長年の間外出していませんでした。

 

それでもアーニーのために勇気を出して、警察署に連れ戻しに行きます。

 

過食症ということはうつ病も同時に患っていたことでしょう。

 

外の社会が普通の人の何倍も怖かったに違いありません。

 

かつては町一番の美人だったというボニー。

 

警察署長に大声で叫びます。

 

母ボニー:

「ジェリー!ジェリー!」

 

「ジェリー、私の息子を返して」

 

署長ジェリー:「手続きがある」

 

母ボニー:

「イヤよ、返して!」

 

「息子を返して!」

 

「私の息子よ!返して!」

 

警察署長と顔見知りだったらしく、ボニーの剣幕に押されて、アーニーを釈放しました。

 

もしかしたら、かつての恋人だったのかもしれません。

 

母ボニー:

「わたしの太陽!よかった!」

 

「もうどこへも行かないで。いいわね?」

 

「大丈夫よ、帰りましょう」

 

釈放されて警察署から出た時、ボニーが家から出てきているということで見物人が周りに集まっていました。

 

指を差す者、写真を撮る老人、嘲笑する子供。

 

その中を、家族寄り添いながら、母親を守るように堂々と歩くギルバート、エミー、エレンはとても誇らしく、思わず涙してしまうシーンです。

 

町の人に嘲笑を受け家に帰ってきた母ボニーは気落ちしていました。

 

アーニーの楽しい声だけが響きいっそうもの悲しさが増す家族の夕食でした。

 

 

15.ベティとの別れ

 

ベティの夫のお葬式が終わり、ベティは雑貨屋に別れの挨拶をしに来ました。

 

ベティ:

セントルイスへ」

 

「あの家は出るわ」

 

ギルバート:「ご主人のことは本当に...」

 

ベティ:

「皆私が殺したと」

 

「そう思う?」

 

ギルバート:「いいや」

 

ベティ:

「いい夫だった」

 

「悲しいけど、悲しくないの」

 

ベティは手が震えてタバコに火をつけることが出来ませんでした。

 

ギルバートは愛情を込めてそっとマッチに火を灯しました。

 

ベティ:

「ギルバート、あなたはどうするの?」

 

「考えてない?」

 

「かわいそうにここにいて、自分を捨てて皆の世話?」

 

「時々思うの。うちの子たちもいつかあなたのようにと」

 

「あなたのように育ってくれたらうれしいわ」

 

そこにベッキーが買い物に店に入ってきました。

 

ベティは別れを惜しみながらギルバートの頬に最後のキスをしました。

 

ベティはベッキーに言いました。

 

ベティ:「譲るわ」

 

ベティはたばこをくわえ凛とした雰囲気を持って店を出て去っていきました。

 

ベッキー「彼女を忘れない?」

 

ギルバート:「ああ」

 

ベッキー「よかった」

 

ベッキーはギルバートに自身の経験を消さないで大切に持っていてほしかったんだと思います。

 


16.小さな町の地殻変動

 

何もない田舎町アイオワのエンドーラにバーガー・バーンというハンバーガーチェーンが来ました。

 

移動式の店舗で、トレーラーでやってきました。

 

ギルバートの閉ざされた心をノックするかのように、キャンピングカーや移動式店舗が訪問してきます。

 

オープニングセールで皆にハンバーガーやシェイクなどを振る舞います。

 

タッカーはそこに就職して店員として働きます。

 

司会:

「皆さん、ご来店を感謝します」

 

「エンドーラの新しい時代が始まります」

 

「”バーガー・バーン”と皆さんに反映が訪れる事を」

 

「我々のチェーンはお客様と末永いお付き合いを望んでいます」

 

「不景気と言われていますが、この町は我々を受け入れて歓迎してくれました」

 

何も変わらないこの町にも少しずつ変化が現れ始めているという雰囲気を出す良い演出です。

 

ベッキー

「直ったわ、トレーラーよ」

 

「明日出発するの」

 

アーニー:「明日の僕のパーティーへ来て」

 

ベッキー「招待されたわ」

 

ギルバート:「いいよ」

 

ベッキーは涙を堪らえながら言いました。

 

ベッキー「私を引き止めてたい?」

 

ギルバート:「いいや、行くなら行けよ」

 

ベッキー「それじゃ、これでお別れ?」

 

ギルバート:

「行かなきゃ」

 

「気をつけて」

 

ギルバートは無関心を装い、心を押し殺してしまうんですね。

 

アーニーはベッキーに抱きつきました。

 

ベッキー「さよなら、アーニー」

 

あれ以来風呂に入るのを嫌がるアーニーはギルバートから走って部屋中を逃げ回ります。

 

ケーキを運ぼうとしている姉エミーにぶつかり、ケーキが床に落ちてぐちゃぐちゃになってしまいました。

 

姉エミーは2度と作らないと泣き叫びます。

 

ギルバートは決心を決めてライバルのスーパーマーケットにケーキを買いに行きます。

 

運悪く店を出てきた瞬間に雑貨屋のオーナーと鉢合わせして、気まずい雰囲気になりました。

 

 

17.兄弟けんか

 

家族総出で誕生パーティーの準備をします。

 

母ボニーは人前に出るのを拒否してしまいます。

 

アーニーは冷蔵庫に入れて置いたケーキを食べてしまいました。

 

ギルバート:

「あのケーキにいくら払ったのか知ってるのか?」

 

「風呂に入れ」

 

「風呂に入るんだ。ふざけてないで服を脱げ」

 

「服を脱ぐんだ、さあ!」

 

「動くな」

 

嫌がるアーニーを無理やり服を脱がします。

 

アーニーはギルバートの髪を引っ張りました。

 

ギルバートは逆上して思わずアーニーを何度も殴りました。

 

我に返ったギルバートはその場にいられなくなり、感情のまま車で町外れまで飛び出しました。

 

今考えるとベティの夫のヒステリックな性格の描写などは、ギルバートの抑圧されたものを爆発させる要因となるものだったのかもしれません。

 

今のギルバートには自分でも忘れてしまっている閉じ込めた感情を吐き出すということが必要だったのだと思います。

 

ギルバートに生まれて初めて殴られたアーニーはとてもショックを受け、家を飛び出しました。

 

姉エミーと妹エレンは車でアーニーを探しに行きます。

 

アーニーはベッキーの所に泣きついてやってきました。

 

ギルバートは町外れで気持ちを落ち着かせた後、気持ちを整理して再び戻ります。

 

そしてギルバートはベッキーの所に立ち寄ります。

 

ベッキー

「大丈夫、怖がらないで」

 

「アーニー、怖くないわよ」

 

アーニー:「歌を歌おう」

 

ベッキー

「ほらね?大丈夫でしょ?」

 

「偉いわ、怖くないでしょ?」

 

何と水を怖がっていたアーニーはベッキーの優しい手ほどきで川に飛び込みます。

 

大好きな兄に嫌われたことがとても辛かったのでしょう。

 

兄にいつまでもそばにいてもらいたくて、アーニーは必死だったのかもしれません。

 

木に隠れて見ていたギルバートはその光景を見て微笑み、安心しました。

 

ベッキーに力を貰ったアーニーはすっかり元気になりました。

 

アーニー:「僕、溺れただろ?そうだろ?」

 

ベッキー「きれいになったわ」

 

そこに姉エミーが迎えにきました。

 

ベッキーは隠れていたギルバートを発見しました。

 

ギルバート:

「殴った」

 

「あいつを本気で...」

 

ベッキー「気にしないで」

 

ギルバート:

「あいつを殴るなんて...」

 

「帰らなきゃ」

 

ベッキーはギルバートを包み込むようにそっと抱きしめました。

 

 

 

 

18.父への愛憎

 

 

ギルバートはキャンピングカーに乗り込み、ベッキーといっしょにこの町を出て行きたかったんですね。

 

ギルバート:

「僕は行けない」

 

「ママの食費を稼がねば」

 

ベッキー「あなたのせい?」

 

ギルバート:

「ママは何年もショック状態だった」

 

「おやじが別れも言わず、ある日突然消えた」

 

「地下室で首を吊ってた」

 

「ママはそれから...」

 

「昔は美人だった」

 

「とても美人だった」

 

「陽気で」

 

ベッキー「じゃあ、お父さんのせい?」

 

ギルバート:

「いいや」

 

「おやじは何を考えてたのか」

 

「感情を表した事がない」

 

「子供と一緒に遊んだ事もなく、笑ったりうれしそうな顔もせず、怒りもせず、無表情」

 

「最初から死んでいるようだった」

 

ベッキーは笑って言いました。

 

ベッキー「そういう人知ってるわ」

 

ギルバートも笑い返します。

 

自分が父アルバートとそっくりなことをギルバートはよく知っているんですね。

 

ギルバートは自分たちを置いて行って死んだ父親が憎かった。

 

でも同時に愛しているのではないかと思うんです。

 

理由は、自分と父が似ていると言われた時に強く否定しなかった。

 

もう一つはあの家が父の形見であり、父そのものだったから離れたくなかったのだと思います。

 

なので無意識の内に父の喋り方や表情を真似ているんだと思います。

 

ギルバートも母同様に父が恋しかったのだと思います。

 

父親のせいかと聞かれた時、違うと言ったのはそれでも父が好きだったからだと思うし、自分の考え方次第でどうにでも環境を変えることができたと気づいたからだと思います。

 

もっと自分と正面から向き合うことができていたら、家族を幸せにできたことに気づいたからだと思います。

 

自分の弱さに気づいた時、父や母の弱さを愛せるようになったからだと思います。

 

自分のいやな所が相手にも見えると、人はその人を憎みます。

 

自己嫌悪や劣等感で抑圧したものを相手の中に見てしまうからです。

 

ベッキーや雑貨屋のオーナーに父親とそっくりだと言われた時、自分のことを落ち着いて客観的に見ることができたのだと思います。

 

自分がどんな人間かが分かった時、人は自分を受け入れ、蘇生しはじめます。

 

無意識に抑圧されていたものが意識下に現れることで、人はよりいっそう強くなります。

 

ギルバートとベッキーはそのまま一夜をともにしました。

 

ギルバート:

「今日はアーニーの誕生日だ」

 

「帰らなきゃ」

 

 

19.人を結びつける誕生パーティー

 

庭には色とりどりの風船をたくさん準備してあり、招待客たちは楽しく語らったり、遊んだりしています。

 

その中で主賓のアーニーもきちんとネクタイをして楽しく遊んでいました。

 

雑貨屋のオーナー夫妻は姉エミーにお母さんは元気かと気にかけます。

 

ギルバートが帰ってきた時、妹エレンは皮肉を込めて言いました。

 

妹エレン:「エミー、お客様よ」

 

タッカー:「どうした、大丈夫か?」

 

ボビー:「生きてたか?」

 

アーニーはギルバートを見つけると、少しうつむいた後、姿を消しました。

 

ギルバート:

「エミー、アーニーは?」

 

「エミー、言ってくれ」

 

「様子は?」

 

姉エミー:「本人に尋ねたら?」

 

ギルバート:「どこに?」

 

姉のエミーもギルバートに対して腹をたてていました。

 

しかし、アーニーが木の上に登りギルバートに分からないようにかくれんぼをし始めます。

 

それを見て、妹エミーはギルバートを許したんだなと悟りました。

 

そして、ギルバートに笑って言います。

 

姉エミー:「どこかしら?」

 

ギルバートはエレンが演技をしているのを知って微笑みます。

 

ギルバートは困った表情を作り、アーニーに聞こえるように大声で叫びます。

 

ギルバート:「エミー、アーニーはどこにいる?」

 

姉エミー:「一緒じゃなかったの?」

 

ギルバート:「違うよ」

 

 

アーニーはとてもうれしそうに木の上ではしゃぎました。

 

ギルバート:

「アーニー!」

 

「誰かアーニーを見たかい?」

 

「弟を見た?」

 

アーニーはギルバートをびっくりさせるように、木からジャンプして降りてきました。

 

目を合わせた二人はしばらく目線を外し、沈黙します。

 

ギルバートとアーニーは強く抱きしめ合いました。

 

ギルバート:

「驚かすな」

 

「驚かすな、いいな」

 

アーニー:「驚かさないよ」

 

アーニーはギルバートを押し倒し、軽く何度もビンタしました。

 

姉エミーはそばで微笑みました。

 

妹エレンはカメラで二人を撮り、母ボニーはカーテンを少し開けて、二人の様子を温かく見守っていました。

 

ギルバートは母ボニーの所へ行きました。

 

ギルバート:「ママ」

 

母ボニー:

「何て事を」

 

「かわいそうな子なのよ」

 

「その上消えたりして」

 

「ひどい子」

 

「本当にひどい子」

 

「家を出ていったのかと」

 

「この上お前まで」

 

「でも戻ってきてくれた」

 

「どうして?」

 

「なぜ戻ったの?」

 

ギルバート:「分からない」

 

二人だけの空間で、ギルバートは母ボニーに甘えるように寄り添いました。

 

ギルバート:

「でも、戻った」

 

「戻った」

 

母ボニー:

「戻ってくれた、パーティーに」

 

「ギルバート、あんたたちには本当につらい思いを」

 

「こんな重荷の母親を」

 

ギルバート:「やめて」

 

母ボニー:

「本当よ」

 

「母親を恥と思ってる」

 

ギルバート:「ママ」

 

母ボニー:

「こんな風になるつもりはなかったのよ」

 

「人の笑いものになるつもりは」

 

ギルバート:「そんな事...」

 

母ボニー:「そんなつもりは...」

 

ギルバート:「笑いものじゃないよ」

 

母ボニー:「ギルバート、お願いよ、黙って姿を消さないで」

 

ボニーは泣きながらギルバートを強く抱きしめました。

 

ベッキーがパーティーにプレゼントを持って来ました。

 

ギルバート:「いいかい、ある人に合わせたい」

 

母親を恥だと思っていたギルバート。

 

自分の運命を受け入れ、己の憎しみも愛情も受容して、母を紹介できるまでに成長しました。

 

ベッキー「いいわ」

 

ギルバートにとって、ベッキーは家族と同じく大切な存在です。

 

ギルバート:

「ママ」

 

「紹介したい人が...」

 

母ボニー:「イヤよ」

 

ギルバート:

「お願い」

 

「僕のために」

 

ベッキー「いいのよ、次の機会に」

 

ギルバート:

「会わせたい」

 

「僕のために」

 

「彼女は笑わないよ」

 

「僕は二度とママを傷つけたりしない」

 

「お願い」

 

母ボニー:「いいわ」

 

ギルバート:

ベッキー

 

ベッキーだよ」

 

母ボニー:「昔からこんなでは...」

 

ベッキー「私も昔はこんなでは」

 

二人は微笑みました。

 

 

20.それぞれの別れ

 

ベッキーとの別れの時が来ました。

 

ベッキー「楽しかったわ」

 

ギルバート:

「分かってる」

 

「何て言えばいいのか」

 

アーニー:「”ありがとう”と言うんだよ」

 

ギルバートとベッキーは涙を拭いて、アーニーの言葉に笑いました。

 

ギルバート:「ありがとう」

 

アーニー:「さよなら」

 

ベッキー「”さよなら”じゃないわ」

 

アーニー:

「じゃあ、”お休み”」

 

「僕はまだ”お休み”じゃないよ」

 

ベッキーは光あふれるキャンピングトレーラーに乗って去って行きました。

 

勇気を振り絞って、息子のためにベッキーと顔を合わせたボニー。

 

それから彼女は自ら歩いて2階の寝室へ階段を懸命に登りました。

 

彼女は家族のために変わろうとしたかったのだと思います。

 

母ボニーはギルバートに言いました。

 

ボニー:

「お前は光輝く甲冑を着た王子様よ」

 

「お前は光り輝いている」

 

「まぶしく光り輝いている」

 

ギルバート:「休んで、眠るんだよ」

 

しばらくしてアーニーは母の寝室に行きました。

 

しかし、母親は静かに亡くなっていました。

 

アーニー:

「ママ」

 

「ママ!ママ!目を覚まして!」

 

「隠れてるの?」

 

「分かってるぞ」

 

「目を開けて!」

 

「ママ!目を覚まして!」

 

「ママ、やめてよ!」

 

「ママ、やめて!」

 

そして死んでしまったと悟ったアーニーは泣きながら2階から降りてきて、自分の頭を叩き庭で暴れました。

 

そのシーンのキャメラは遠くの方からアーニーを優しく撮影しているんですね。

 

とても気の利いた優しい演出です。

 

私達にもアーニーに共感してほしいという気持ちがわかります。

 

夕陽につつまれたせつなくも美しいシーンです。

 

ギルバート:「クレーンが必要かな」

 

妹エレン:

「人が集まるわ」

 

「見物人が大勢...」

 

ギルバートは決して入らなかった地下室へ行き、柱を力の限り、なぎ倒しました。

 

ギルバートは初めて感情をだして、運命を呪ったのだと思います。

 

母のために抑圧していた父への恨みを力の限り、父親がつくったこの家にぶつけました。

 

姉エミー:「いい顔だわ」

 

エミーは妹エレンに微笑みました。

 

 

21.自由そして新しい世界へ

 

ギルバート:

「笑いものにはさせないぞ」

 

「笑いものにはさせない」

 

「アーニー、お前も手伝え」

 

そして、グレイプ一家は家を母親ごと燃やす決断をします。

 

家財道具を皆で運び出し、火をつけます。

 

家族は庭で家が燃え尽きるまでその様子をじっと見つめ続けました。

 

家族を取り込んでいた亡霊から解き放たれた瞬間でした。

 

彼らは自由になりました。

 

ギルバートはアーニーに ”これからはどこにでも行けるよ” と言いました。

 

あくる年、二人は冒頭シーンのようにキャンピングトレーラーが来るのを待っていました。

 

アーニー:「ギルバート、あれ?」

 

ギルバート:「まだだよ、もう少し待て」

 

アーニー:「いつ来るの?」

 

ギルバート:「すぐ来るよ、もう少し待て」

 

アーニー:「ギルバート、見て」

 

ギルバートの心の中:

「アーニーは19歳になる」

 

「19歳だ」

 

「エミーは町のパン屋の店長」

 

「エレンも一緒に転校」

 

「アーニーは ”僕らはどこへ?” と」

 

「僕は言った、”どこへでも” と」

 

アーニー:

ベッキー!」

 

ベッキーが来る」

 

ギルバート:「そうだよ、じき会える」

 

アーニー:

ベッキー!」

 

「ギルバート、迎えに行こう!」

 

ベッキーが窓から顔を出し、懐かしそうな笑顔で手を振っています。

 

ベッキーの髪は少し長くなっていました。

 

そして、ギルバートとアーニーはベッキーのキャンピングトレーラーに乗り込み、旅に出ました。

 

 

22.おわりに

 

この作品は次男ギルバートの心の成長の物語です。

 

好対照な2つの家がよかったですね。


ひとつは自由でキラキラしたしっかりした作りのキャンピングトレーラー。

 

もうひとつは屋根は錆びて、木材の柱は朽ちて暗い洞窟のような今にも壊れそうな古い家。

 

未来と過去とも読み取れます。

 

希望と現実とも思えます。

 

動と静、軽いと重い、流れと淀みなどいろいろ連想できます。

 

ギルバートは自分の家を遠くから見て言いました。

 

ギルバート:「驚いたな、遠くで見るとあんなに小さいんだな」

 

小さな頃から背負ってきた責任が大きかったんでしょう。

 

ふと気が抜けた時、小さな家だということに気づかされたんですね。

 

次男は母を食べさせなければならない。

 

母をこれ以上悲しませてはいけない。

 

母を笑い者にさせてはいけない。

 

妹を立派な大人にしなくてはならない。

 

姉にも負担をかけてはいけない。

 

弟の面倒を一生面倒見なくてはいけない。

 

弟が周りの人に迷惑をかけさせてはいけない。

 

これらすべての責任がまだ若い青年ギルバートを背に乗っかっていました。

 

素晴らしいのは周りの人達がギルバートの人柄を感じ取っていて、優しく助けてくれるんですね。

 

振り返って見ると、登場人物には誰一人、悪人はいませんでした。

 

こころ優しい美しい作品でした。

 

泣きながら笑うことのできる映画です。

 

さまざまな小道具が意味を持ち、映像言語の役割をしっかり果たしています。

 

☆人生のような長い長い坂道

 

☆キラキラしたエアストリーム

 

☆細いフレームの軽い自転車

 

☆癒やしの川

 

☆別れを告げる自動車部品

 

☆生気ある新鮮なスイカ

 

☆幼児性を表す子供プール

 

☆身体を模したスプーン

 

死の灰

 

☆人間の悩みなんて小さいと感じさせてくれる夕焼け

 

☆セックスシンボル的なアイスクリーム

 

☆弾けだしそうな心の不安定さを感じるトランポリン

 

☆情事の終わりを告げるオーブン

 

☆心の安定の必需品であるタバコ

 

☆終焉を告げる喪服

 

☆過去と現在を分かつ立ち入り禁止テープ

 

☆細々と暮らす一家の郵便受け

 

☆抑圧しきれない心を表す軋む床

 

☆父の寝床である地下室

 

☆墓の主のいない父の墓

 

☆ひと目を隠す毛布

 

☆現実逃避のテレビ

 

☆人生には逃げれない場面があることを教えてくれる、かからないエンジン

 

☆苦悩を消滅させるマッチ

 

☆生き物ははかないことを想起させるバッタ

 

☆形が変わってしまう買い物袋

 

☆アーニーが決してたどり着けない健常性を示す給水塔

 

☆事件とオモチャ、見る者によって思いが異なるパトカー

 

☆命を確認するための誕生日ケーキ

 

☆家族が息を吹き込んだ風船

 

☆兄弟の愛情を確かめ合う木登り

 

☆吊るされたタイヤのブランコ

 

☆心の自由を印すバーガー・バーンの移動式店舗

 

☆いつでも死が近くにあるよと告げる霊柩車

 

☆ささいなアイテムで幸せになれるバーガー・バーンの帽子

 

☆雑貨屋のオーナーの憎きスーパーマーケットのロブスター

 

あなたは何を連想しますか?

 

映画は自分を写す鏡だと思います。

 

あるものを見ても、人によって捉え方が違います。

 

そこに自分だけの癒やしの効果が映画にはあると思うのです。

 

アップルパイを見て、母親を思い出す。(私の心の中です)

 

釣り竿を見て父親を思い出す。

 

青いシャーペンを見て、恋人を思い出す。

 

線路を見て小2を思い出す。

 

これらのアイテムが物語に紡がれて、過去に旅したりできると思うのです。

 

過去の喜びや悲しみ、寂しさ、嫉妬、妬み、心地よさなど追体験できます。

 

そして俯瞰的視点で自分を見つめて、現在の自分と比較したり、未来に向けて良い計画を立てることができます。

 

また、今の悩みの小ささに笑ってしまうかもしれません。

 

自分だけでなく、年が離れた親の気持ち、性別がちがう友人やパートナーの気持ちに共感できます。

 

段々と自分の気持ちが整理されて、いい結論が出てくれることがあるかもしれません。

 

今回は特にそういった映画の役割が十分に出ている作品です。

 

よろしければ、是非とも観ていただけると幸いです。

 

のちにビッグスターとなるディカプリオ、ジョニー・デップジュリエット・ルイスの若き年代の作品ですので、彼ら目当てでも見る価値は十分にありますよ。

 

それでは、またの作品で。

 

さよなら。

 

 

23.関連作品

 

 

『マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ』 ラッセ・ハルストレム監督

 

 

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